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あ、ローレンツ。厳しい戦いだったけど、 お互い、無事に生還できてよかったわね。
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ああ……君の助けがなければ、僕は今頃 名誉の戦死を遂げていたところだ。
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僕を慕う女性たちを悲しませずに済んだ。 そのことについては礼を言っておこう。
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……何か引っかかる言い方ね。
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以前、君に話したことを覚えているな? このフォドラの、あるべき秩序についてだ。
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ええ、確か……貴族は平民を守り、平民は おとなしく寝てて、みたいな話だったかしら。
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寝てろ、とは言っていないが…… 貴族には平民を守る責務がある。
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いや、覚えてないけど……。 あるべき秩序って何のこと?
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まったく……貴族は平民を守る責務がある という、そういう話をしただろう?
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逆に貴族が平民に庇われ、挙げ句、 その平民が命を落としてしまったら……
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それはもう貴族失格と言わざるを得ない。 危うく、僕がそうなるところだった。
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そうは言うけど、私が助けなきゃ、 たぶんあなた死んでたわよ?
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僕を助けたことで、君は窮地に陥った。 危うく君まで死ぬところだったじゃないか。
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けど、こうして生きてるわ。
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運が良かっただけだ、自覚したまえ。
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いいか? 平民が自らの命を投げ打ってまで 貴族を助けようとなど、しなくてよいのだ。
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平民の命と引き換えに生き永らえるなど、 僕には耐えがたい屈辱なのだよ。
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今回のようなことは、決して、二度と、 しないでくれたまえ。いいね?
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ええ、悪かったわ。 ごめんね。
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……! ま、待て。誤解しないでくれ。 僕は何も、謝ってほしいわけではないのだ。
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助けてもらった相手に謝罪を求めるなど、 僕がそんな狭量で身勝手な男に見えるか?
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わかった、なら謝ったのは取り消すわよ。 ……面倒な人ね。
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それが助けてもらった相手に言う言葉なの? 見損なったわ、ローレンツ。
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なっ……待て、違うんだ。感謝はしている。 ただ僕の立場を理解してほしいだけなのだ。
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そんな必死にならないでよ。見損なった ってのは取り消すから。……面倒な人ね。
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面倒とは失敬な。 僕にとっては大事なことなのだよ。
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先に言っとくけど、次に同じようなことが あったら、私はまたあなたを助けるわよ?
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何だと? 全然わかってくれていないではないか!
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いえ、あなたの言いたいことはわかるけど、 私にも私のやり方ってものがあるの。
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傭兵上がりとはいえ、目の前で仲間に 死なれたら後味が悪いことこの上ないわ。
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その仲間が私より弱い人なら尚更よ。 助けてあげなきゃ仕方ないでしょ?
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君より弱い……それはもしかして、 僕のことを言っているのか?
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違うの? そもそも庇われたくないなら、 もっと強くなればいいわけで。
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……確かに、君の言うとおりだ。 正論すぎて文句を言う気にもなれない。
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いいだろう、これからの僕を見ていたまえ。 僕はまだまだ伸びしろのある男なんでね。
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君を凌ぐ強さを身につけ、 貴族の僕が、平民の君を助ける……
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そしてフォドラの秩序は守られる! うむ、万事解決だな。はーっはっはっ!
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……悪い人じゃないんだけどね。