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あ、戻ったのね、ユーリス。 まさか今日のうちに帰ってくるなんて。
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おう。日が昇る前に帰らねえと、また俺を 心配した誰かに部屋を漁られかねないしな。
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……あの時は漁ってたわけじゃないわ。 何よ、まだ根に持ってるの?
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ちょっと、誰かって誰よ、まったく。 あなた、まだ根に持ってるの?
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馬鹿野郎、冗談だっての。真に受けるなよ。 もう夜も遅いし、お前も早く休むんだな。
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わかってる。ちょっと目が覚めただけよ。 ……ところで、母さんは大丈夫だったの?
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あー……まあ、芳しくないのは確かだが、 別に、すぐに死ぬってわけでもないらしい。
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俺はもう少し残るつもりだったんだが、 今やるべきことをやれって言われちまった。
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まったく、顔が見たいって言ってみたり、 帰れって言ったり、忙しい人だよ。本当に。
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そういう話を聞いてると、私も母さん…… 育ての母を、思い出すわね。
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亡くなったんだっけ。そんな顔で話が できるってことは、良い人だったんだな。
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ええ、私にはもったいない人だったわ。 拾い子の私に、生き方を教えてくれたの。
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血の繋がりこそないけど、 あの人は確かに私の母親よ。
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ガキにそこまで言ってもらえて、 お前の母さんも喜んでるだろうよ。
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……そうそう、ずっと気になって たんだけど、折角だから教えてくれない?
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あなたの名前、母さんがつけたんでしょ? どういう由来なの? 珍しい名前よね。
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……空を見てみろ。……いや違う、 もう少し左だ。そこに明るい星があるだろ。
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左? 明るい星? ……どれよ? あれって言われてもさっぱりわからないわ。
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なら、わからなくても別にいい。 とりあえず、あの星の古い名前なんだとさ。
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天上におられる女神様が、 自らの従者としたという白い星。
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母さんは敬虔なセイロス教徒ではあるが、 貧民のガキにつける名前にしては仰々しい。
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そう? いいじゃない、 それだけあなたが大事だってことでしょ。
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……そうだな。まあ、俺は気に入ってるよ。 何つっても、母さんがくれた名前だからな。
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母さんがどこまで経典の中身を 理解してるかは俺もわからないが……
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あの人なりに、精一杯考えてくれた 名前だってことだけは間違いないんだ。
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そんなに想いの込められた名前なのに、 私たちは呼んだら駄目なの?
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……俺は、いろんな名前を名乗って、 その度にいろんな人間の仮面を被ってきた。
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だがこの名前で呼ばれる時だけは、 俺は何の仮面も被らずにいられる。
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この名前を呼ばせるとしたら、それは 肉親だとかの特別な相手だけなんだよ。
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そんなに俺をそう呼びてえなら、 俺と一生を共にする覚悟でも決めるこった。
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一生を共に、ね……。 考えておくわ。
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ぶっ……っははは! 何でそんな真顔で 答えてるんだよ。ああ、傑作だ!
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ふふふ、何言ってるのよ、ユーリス。 一生ってのは流石に荷が重すぎるわ。
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当たり前だろ。「覚悟はできてる」 なんて言われたらどうしようかと思った。
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まあ、良い名前だって 言ってもらえたのは素直に喜んでおくか。
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けど、もし本気で覚悟が決まったら、 言えよな? 考えといてやるからさ。