- ロドリグさん、本を探してるのか?
- ええ。『キッホル用兵総論』をね。
ちょっと参考にしたいと思いまして。
- 『キッホル用兵総論』……確か士官学校に
いた頃、チラッと読んだ気もするが。
- もしかして、次の作戦の準備か?
- ええ、まあ……少しね。
- 何だよロドリグさん。アンタにしては
珍しく、歯切れの悪い返事だな。
- [HERO_MF]殿、ジェラルト傭兵団と
戦った時のことを覚えていますか?
- 覚えていると答える
- 記憶が曖昧だと答える
- あんなに激しい戦いだったんだ。
忘れられるわけがないだろ?
- そうですね。あの戦いがあったからこそ、
傭兵団の人々も加わってくれたわけですし。
- 正直、戦いの間は無我夢中だったから、
詳しいことは覚えてないんだよな。
- 激しい戦いでしたし、無理からぬことです。
あの戦場で生き延びただけでも立派ですよ。
- 何とか戦いの主導権を握れましたが、
一つ間違えれば容易に大敗したでしょう。
- もしそうなれば、本陣を預かっていた私も
命を落としていたかもしれません。
- ……確かに、危ない戦いではあった。
常に綱渡りを強いられてた感じだ。
- 一応は兵を率いていた身ですから、
ああも巧みな用兵を見ると悔しくてね。
- もっと大局を見て敵の動きを読まねばと、
偉大な先達の知恵を借りていたのですよ。
- 真面目なんだな、ロドリグさんは。
もう十分経験豊富なのに、向上心もあって。
- ただ負けず嫌いなだけですよ。
私には、辺境伯のような悪辣さはなく……
- 先王陛下のように、たった一人で
戦況を覆す出鱈目な武勇もない。
- だから一つでも多くの定石を学ぶのです。
知恵者にも武辺者にも、勝てるようにね。
- 前にアンタは、自分とフェリクスは
そこまで似てないって言っていたが……
- そうして自分を高める努力を怠らない
ところは、フェリクスと瓜二つだ。
- 子は親に似るってのは本当かもな。
ディミトリもシルヴァンも、フェリクスも。
- 子は親に似るってのは本当かもな。
ディミトリも、フェリクスも。
- そうして時間をかけて積み上げてきた
努力が、アンタの強さの理由なんだろう。
- はは。ここは謙遜せず、素直に受け取って
おきましょう。ありがとうございます。
- もしかして今のアンタなら、辺境伯や
先王と戦っても、勝てるかもしれないぞ。
- いや、それはどうだか。昔の私にとって、
彼らの背中は遠かったですからねえ……。
- そして辺境伯はともかく、少なくとも
先王陛下の背中は永遠に遠いままです。
- ……死んじまった奴を追い越すことは、
できないからな。
- けれど……だからこそ、学び続けるのです。
永遠に届かない者の背中を目指して、ね。
- ……よし。だったら今度は俺が、
アンタの背中を追わせてもらおうか。
- いつか必ず追いついてやるから、
それまで死なないでくれよ、ロドリグさん。
- おっと、ならば簡単に追いつかれないよう
私も努力を重ねねばなりませんね。
- ……さて、『キッホル用兵総論』だったな?
ちょっと詳しそうな奴に聞いてくる。
- ……次の冬には、故郷に帰れるだろうか。