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……どうした、ユーリス。 人の顔をじろじろと見て……。
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いや、おかしな話だと思ってよ……。 あんたがこんな街に馴染んじまってるとか。
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そうか、馴染めているか! 俺はここが好きだ。この街も、街の者も。
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確かに裏通りには流れ者も多いが、 それはつまり、懐が広いということだろう。
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俺のような素性の知れない人間も、 人々は笑って受け入れてくれる。
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いやまあ、流石にあんたが王様だと知ったら みんなひっくり返るだろうけどな……。
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で、掃き溜めの視察はどうでしたか、陛下。 見えたのかよ、違う景色とやらは。
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そうだな……俺は長らく、貧しい者たちを どうしたら救えるかとばかり考えていた。
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施療院の設立や、教会への出資…… そうした上からの援助が最も肝要だ、と。
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だが、この街の人々を見て思ったんだ。 彼らはただ救いを待つだけの弱者ではない。
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お前の言う弱者ってのの定義はさておき、 そうおとなしい連中でもねえのは確かだな。
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理想論ではあるが、俺は貴族だけでなく、 一人一人の民が納得できる政治がしたい。
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そのために、彼らが声を上げる機会が…… 領主や王が、その声を聞く機会が必要だ。
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とはいえ、俺がすべての街や村落を巡って 実情を見て回るわけにもいかないだろ。
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せめてそうした法や制度を整えていけば、 少しは理想に近づけられるのではと思った。
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ほー……そりゃ実現できたなら万々歳だが、 そう簡単にはいかねえと思うぜ?
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まずはその手の貧しい連中に、 最低限の知恵をつけさせてやらねえと。
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もちろん「腹が減った」とか「税が重い」 くらいの話ならできるかもしれねえが……
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例えば、領主の政策や方針の意図をきちんと 理解して意見するのには、教養が必要だ。
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教養…… やはり、重要なのは教育、というわけか。
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ああ。で、厄介なことに人間ってのは寝床と 食い物がねえと学ぶ気にならねえもんだろ。
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生活の向上が最優先……教育は、 その上にこそ成り立つということだな。
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何をするにも資金が必要だが…… 今は戦の最中だ。国庫は潤沢とは言い難い。
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俺にできることといえば、この戦争を 一刻も早く終わらせることくらいだが……
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ようは金の問題、ってことか。だったら、 俺たちを使う気はないか、ディミトリ。
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金が要るなら信頼できる豪商を紹介しよう。 汚え仕事が御所望なら部下を貸してやる。
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代わりにあんたはちょっとばかり、 俺たちの“後ろ盾”になってくれればいい。
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王の名を借りて悪事を働くつもりなら、 俺も簡単には頷けないな。それに……
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そうしてお前に食い潰された 領主についても、俺は聞き及んでいる。
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あいつらとあんたは違う。あんたと俺の 力があれば、俺の夢は叶うと思ってる……。
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あんたを相手に悪徳な商売はしねえよ。 これは俺の、精一杯の善意だ。
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お前の、夢?
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まあ、それは追々話すよ。 で、どうする王様? 交渉成立か?
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……前向きに考えておく。俺もお前と 共に過ごして……お前を信じたいと思った。
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俺なら必ず、あんたの役に立ってやれる。 色よい返事を期待してるぜ。