- ……あ、ホルストさん。
もしかして、これから訓練?
- ああ、そのつもりだが。
- ちょうど良かったわ!
私も一緒にやらせてくれない?
- それはもちろん、構わないが。
ごく普通の基礎訓練をするだけだぞ?
- 折角の機会だし、少しだけでも
私と手合わせしてくれると嬉しいんだけど。
- あなたの噂は昔から耳にしてたのよね。
レスター随一の武勇の持ち主って。
- だから、あなたの強さの一端でも
学び取らせてくれないかしら。
- 手合わせか……それが君にとって
学びになるかどうか、いささか疑問だな。
- え、どうして?
- 味方同士の手合わせで本気は出せない。
相手を殺すわけにはいかないからな。
- まだ死にたくはないけど、大怪我くらいは
覚悟の上よ。あなたの本気、見せてほしい。
- ……本気を出せば大怪我では済まないから、
言っている。
- 君の実力は承知しているよ。
手加減などすれば、私のほうが危うい。
- ……どうしても、ホルストさんの本気は、
見せてもらえないってこと?
- そうだな……どうしても私の本気を
見たいなら、手段は一つだけだ。
- ヒルダに手を出す?と聞く
- 敵勢力に寝返る?と聞く
- ヒルダに手を出す、とか……?
- 君が、ヒルダに……?
- はっはっはっ、そんなことで本気で
殺すはずがないだろう。そんなことでな。
- ………………。
- 私が言っているのは、
そういうことではない。
- 敵勢力に寝返る、とか……?
- そうだ、わかっているな。
- 敵として戦場で対峙する……
君に本気を出すとすれば、それのみだ。
- そもそも実戦以上に学べる場所など
ありはしない。
- 私自身、座学や訓練で身に付けてきた
ものより……
- 実戦を重ね、何度も死地をくぐり抜けて
会得したもののほうが多いのは間違いない。
- さあ、君はどうする? 敵勢力に寝返り、
私を相手に死闘を繰り広げてみるか?
- 保留する
- 否定する
- ……そうね、考えておくわ。
- ほう、保留するか。それもまた良し。
可能性を自ら閉ざすことはないからな。
- ……やめておくわ。
今はこの軍を裏切りたくはないしね。
- ほう、若いのに冷静だな。もっと
がむしゃらに向かってくるかと思ったが。
- とりあえず、今日のところは味方としての
訓練で満足しとくわよ。
- いいだろう。
共に良い汗を流すとしよう。