1. ……あら? イエリッツァさんじゃない。 どうしたの、そんなぼうっと突っ立って。
  2. そういえば士官学校にいた頃から、 あなたはいっつも訓練場にいたわね。
  3. ……落ち着くからだ。
  4. へえ……あたくしは訓練場より、ゆっくり お酒が飲める場所のほうが落ち着くけど。
  5. ねえ、折角だし今度一杯やりましょうよ。 ハンネマンも暇を持て余してるでしょうし。
  6. ……悪いが、酒は好かん。
  7. あら、それじゃ仕方ないわね……。互いの 身の上を語り合う良い機会だと思ったけど。
  8. ……あっ、そうだわ、身の上と言えば。 あなた、どうして仮面で顔を隠していたの?
  9. 折角の色男がもったいないわ。 今のほうがずっと良いわよ。
  10. ………………。 話す必要はない……。
  11. ………………!
  12. あ、あなたの経歴を聞く限り、 あたくしよりだいぶ年下のはずなのに……
  13. 大人の雰囲気があって……。 踏み込めないような秘密を持っていて……。
  14. でもどこか、静かな闘志みたいなものを 秘めていそうで……!
  15. ……ありよね。ありだわ。 これはこれで、ありなんじゃないかしら!?
  16. ………………。
  17. 夜は一緒にお酒……は嫌いなんだったわね。 そのぶん、一緒に歌って踊って楽しむのよ。
  18. ………………。 ……顔を、明かすわけにはいかなかった。
  19. ……そうして朝まで……えっ? あっ、顔? ああ、あなたが顔を隠していた理由ね?
  20. ……私の顔を知る者もいた。 罪人と、知られてはならなかった。
  21. 罪人……? よくわからないけれど、 やむを得ない事情があったのね?
  22. でも、どうして突然 あたくしに話してくれたのかしら。
  23. さっきは「お前には関係ないことだ」なんて つれない態度で突っぱねていたのに。
  24. ……話さなければ、終わらんからだ。
  25. ! ……ふふっ。
  26. ……何だ。 妙なことを、言ったつもりはないが。
  27. ごめんなさい、面白がったつもりはないの。 ただ、あなたの困った顔も素敵だと思って。
  28. ………………。
  29. 今のあなたなら、女性がほっとかないわね。 これは……あたくしも後れを取れないわ!
  30. ………………?