- ふふ、心地良い風……。
自然はいいわね。
- 陛下、ヒューベルトが捜して……
- あっ、お休み中でしたね。
邪魔をしてすみません。
- 少しだけ、外の風に当たらせて。
すぐに戻るわ。
- いえ、少しと言わず、ずっとで平気です。
ヒューベルトの件はあたしにお任せを。
- 見つからなかったとでも何でも言えるので、
思う存分、羽を伸ばしてくださいね。
- あ、寒くありませんか?
羽織るものと、それから温かい紅茶を……
- 大丈夫よ、モニカ。
気遣いだけ受け取っておくから。
- それにしても……
- 陛下? どうかしました?
あたしの顔に何か……。
- いえ、貴方がここにこうしていることの、
幸運に感謝しているだけよ。
- “闇に蠢く者”に囚われた貴方を、そのまま
失っていた未来もあったかもしれない、と。
- そうですね……。あたしが生かされたのは、
何かの術に使われる予定だったから……
- ……なんですよね?
でも、おかげで助かりました。
- 生涯仕えるお方に自らの手で救っていただく
という栄誉にも与れましたし。
- 栄誉と言ってもらえるのは嬉しいけれど、
単に動かせる戦力がなかっただけなの。
- それでも、ですよ。
- ただ憧れだった陛下が、あたしの運命の人に
変わった日と言っても過言ではないのです!
- う、運命の人……?
- はい……! あたしのような木っ端貴族の
娘を、陛下は身を挺して庇って……
- 私は……貴方を見捨てようとしたのよ。
自分の道のために、貴方を切り捨てたの。
- 貴方の救出が成るたった一節前まで、
私は貴方を助ける予定なんてなかった。
- それは……
- “闇に蠢く者”にとって、貴方は貴重な
存在だったみたいで……
- 彼らが貴方に手を出すのを見逃す代わりに、
私は彼らの力を使おうとした。
- ……貴方という犠牲を払って、
私たちは戦うための準備を進めたのよ。
- それでも、陛下は助けてくれました。
あたしの命を救うことを選んでくれた。
- それまでの過程なんて、あたしには
どうだっていいんです。
- そのままあたしを交換材料として、
あいつらと取引していれば良かったのに……
- 手を切って、救ってくれたじゃないですか!
あたしは、今ここにいるんです!
- モニカ……。
- たった一つのあたしの生が、陛下と共に
歩む運命であったことに……
- あたしは感謝しています。
感謝し切れないほどに。
- ……ありがとう、モニカ。