1. おい。
  2. まったく、爵位を退いたとはいえ…… 父親に向かって「おい」とは何だ。
  3. 御託はいい。あんたに一つ聞きたい。 フラルダリウス領南部の城主らについてだ。
  4. 南部……おっと、やはりお前も連中の 対処に追われることになったか。
  5. おおかた、物資の供出を渋っているか、 出兵を拒んでいるといったところだろう。
  6. ……なぜわかった。
  7. なぜも何も、かつての私が 踏んできた轍だからなあ。
  8. 南部の兵は質で劣るが、数は多い。 何としても協力の約束を取りつけたいが……
  9. 連中は一向に首を縦に振らん。 どうしたら連中を説き伏せられる。
  10. なに、難しいことなどあるものか。 恐らく彼らにも彼らの事情があるのだ。
  11. 事情だと?
  12. スレン征伐のための援軍を断られた時などは 家督を巡って対立しつつあったようでな。
  13. どこか一つの家が援軍を遣ったと知れ渡れば 他家が情け容赦なくその隙を突いてくる……
  14. 書簡を読んだだけでは、そうした細かい 情勢まで窺い知ることはかなわなかった。
  15. ……つまりは自分の足で、 領内を回ってみろと言いたいのだな。
  16. とはいえ、今は戦いの最中なのだし、 無理にとは言わんがな。
  17. フン……月並みな助言ではあるが、 参考になった。試してみよう。
  18. ……ふふ。
  19. 何がおかしい。
  20. いやあ、お前も今では、立派に公爵として 務めを果たしているのだと思ってなあ。
  21. は? 当たり前だろうが。 俺に家督を譲ったのは他でもないあんただ。
  22. それはそうだが。私が家督を継いだのは、 お前よりも年を取ってからだった。
  23. お前はその年で良く頑張っているよ。 本当に、私の子は出来た息子ばかりだな。
  24. 息子ばかり、だと? あんたはまた、兄上の 死に様を「見事だ」などと言うつもりか。
  25. ……フェリクス。
  26. かつてのあんたと同じように王に仕え、 多くの騎士を従えるようになって……
  27. 少しはあんたの気持ちもわかったつもりだ。 ……だがな。
  28. 俺は、まだあの日のあんたの言葉に 納得したわけではない。
  29. ……また余計なことを言ってしまった。 上手くいかんものだな、本当に……。
  30. グレンが生きていたら、大人げないとでも 言われてしまっただろうか……。