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美味しいですね、この紅茶。 甘さは物足りませんが、良い香りがします。
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気づいてくれたかい? 実は、稀少な薔薇の蜜を加えたのだ。
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なるほど、だから独特な味がするんですね。 ちょっと気に入ったかも。
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蜜を濃く入れるほど、相手と濃密な時間を 過ごせる……というわけさ。
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蜜の濃度はこれで結構です。甘いお菓子にも よく合いますし。あ、もうお菓子が……
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む……もう食べてしまったのか。 残念ながら菓子はそれでおしまいだ。
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今は甘味が手に入りにくくてね……。他に 欲しい物があるなら、なるべく応えるが。
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いえ、特には。お菓子がないなら、 紅茶もこれで十分です。それでは……
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待ちたまえ。欲しい物がないなら、聞いて ほしい話はないか? 悩みがあるとか……。
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いえ、何も。それでは……
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……リシテア。私は知っているのだ。君には 平民になりたいという悩みがあるそうだね?
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……誰から聞いたのか知りませんが、 それは別に悩みではありません。
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平民になりたい、というのは そのとおりですけど。
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戦争が終わったら爵位を返上して、両親と 静かに暮らすつもりです。それが何か?
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貴族の身分を捨てるというからには、 何か大変な事情があってのことなのだろう?
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それに、平民の暮らしがどのようなものか、 きっと不安を抱えているはずだ。
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私の知る限り、貴族から平民に落ちた者は、 誰もが例外なく苦しい思いをしている。
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そのような将来が待っているとすれば、 悩みの一つや二つ、必ず出てくるものさ。
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あんたが言っているのは、何かやらかして 爵位を取り上げられた没落貴族でしょう?
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わたしの場合、貴族の身分を捨てたくて 捨てるんです。一緒にしないでくれます?
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そ、そうか……ならば、 私から一つ、提案がある。
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平民になったとして、貴族との垣根を 越えるような生き方をしてはどうだ?
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優秀な貴族としての経験がある君が、 一平民として埋もれてしまうのは惜しい。
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君ならば、平民の目線からこの世界を 変えていくような存在にもなれるはずだ。
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君からの提言なら貴族も必ず耳を傾ける。 平民の暮らしをより良くするために……
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もうやめて。確かに、あんたの考えは 素晴らしいと思います。
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でも……わたしにそんなことを 語っても無意味です。
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平民のためとか、世界のためとか…… それは貴族が考えることでしょう?
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わたしにはもう、このフォドラのために 何かを背負うことなんてできない。
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ただ両親に寄り添って、残りの人生を 静かに暮らすことしか……。
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リシテア……?
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あんたが淹れた紅茶、美味しかったです。 ごちそうさまでした。
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………………。