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………………。
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ここにいたのか、イグナーツ君。
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ああ、ローレンツくん。 ここは景色が綺麗で、落ち着きますからね。
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同感だ。 僕もこの場所は美しいと思う。
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……君は今やグロスタール家の騎士で ありながら、この軍の一将にまでなった。
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昔の君は、正直に言えば少し目が利く 商人の子という印象でしかなかったが……
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あははは……。確かにあの頃のボクは そうだったと思います。
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しかし、今では、 見違えるまでに逞しくなったな。
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そう、だと嬉しいですね。 ボクは、まだまだな気もしますが。
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戦争が始まる前、騎士として領内で 働いていた頃の自分を覚えているか?
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その頃の君より……今の、各地を転戦する 君のほうが、遥かに生き生きして見えるよ。
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生き生きして見える……ですか。
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戦闘を好んでいるわけではあるまい? だから、不思議ではあるがね。
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それは、きっと……。
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……実は、絵を描いているんです! 行軍中、暇を見つけて、ですが。
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ほう……そうなのか?
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はい。この場所のように、フォドラの 各地には美しい景観がたくさんあります。
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そういった景色を見て、形に残したいと 思って絵にしているんです。
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だからかもしれません。 君には見抜かれていたんですね。
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………………。
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……すまない。イグナーツ君。
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え、どうしたんですか? 急に。
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君のためを思い、騎士の位を与えたが、 君の本分は別にあったのかもしれないな。
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絵の話をしている今の君を見ていると、 そう思わずにはいられない。
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そんな、謝らないでくださいよ。
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ボクはローレンツくんに 本当に感謝しているんです。
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感謝……? 何故、僕に感謝するのだ?
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士官学校が休止になって……道に惑っていた ボクを、君は騎士にしてくれました。
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騎士になってからのいろいろな経験は、 ボクの人生にとって欠かせない彩りです。
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……そうか。
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これからボクがどんなふうに生きて、 どんな絵を描いたとしても……
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そこに「グロスタール家の騎士」の色は、 必ず出ます。決して消えたりはしません。
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ボクは、そのことを、 とても誇りに思っているんです。
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……イグナーツ君。 僕のほうこそ、誇りに思うよ。
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君のような人物が、 グロスタールの騎士であることをね。