- ……メルセデスか。
丁度いいところにいたな。
- フェリクス? ……あらあら?
その猫、どうしたのかしら~……?
- ……拾った。
- 拾ったって……まあ!
その子、足を怪我してるじゃない。
- ちょっと貸してみてちょうだい。
私の魔法で治してあげられるかも~。
- ……ふう。これで大丈夫かしら~。
- 礼を言う。世話をかけたな。
- いいのよ~。……ふふ、だけどあなたが
猫を連れてくるなんて思わなかったわ~。
- 何だか、子供の頃に弟が猫を
拾ってきた時のことを思い出しちゃった。
- ……そういえば、父親の違う弟がいると
言っていたな。
- ……お前の弟といえば、
イエリッツァ先生のことか。
- ええ。あれは、まだ私がバルテルスのお家に
いた頃だから……もうずっと昔のことね。
- 弟が、怪我をした子猫を拾ってきたの。
怪我が治った後、お屋敷に住み着いて……
- 家の人たちには知られないように、
こっそり食べ物を分けてあげたりしたわ。
- 隠れて餌をやる必要があったのか。
別段恥じるようなことでもあるまい。
- 絶対に知られちゃいけなかったのよ。
あの家には、怖い人たちばかりだったから。
- もしも知られたら、あの猫は
殺されてしまっていたかもしれない。
- 弟を置いて家を出て、それきり二度と
バルテルス家には帰らなかったけれど……
- ずっと気がかりなの。
あの猫は無事でいたのかしら、って……。
- 獣は独りでも生きていけるものだ。
居心地が悪ければ、勝手に出ていくだろう。
- ……そうよね。きっとそうだわ。
- む……もう怪我は治ったのだし、
元の場所に戻してこなければな。
- ふふ、大丈夫かしら~?
その子、随分あなたに懐いてそうだけれど。
- そうかもしれんが、飼うわけにもいかん。
この小ささだ、親猫がいる可能性もある。
- 確かに、それはそうよね。
返してきてあげたほうがいいと思うわ。
- ……おい。さっさと行け。
チッ……だから行けと言っているだろうが。
- ええい、まとわりつくな!
餌か。餌が欲しいのか、お前は!
- ふふ……じゃれつかれてるみたいね~。
よっぽど気に入られていたのかしら。
- 自分を助けてくれた優しい人のことは、
あの子たちもわかってるんでしょうね~。
- メルセデス。どうにかしてくれ。
あの猫、まったく去る様子がない。
- 残念だけれど、どうにもできないわ~。
その子が帰りたくなるのを待ちましょう。
- はあ……。
- あら、そう溜め息なんてついちゃ駄目よ~。
猫に好かれるのなんて嬉しいことじゃない。
- 私の弟は昔から猫が大好きなのに、近頃は
懐いてもらえないって落ち込んでいたわ~。
- ……よくわからん方だな。
ともかく今は、そういう問題ではない……。
- そういう問題ではない……。
- ふふふ。それじゃ、お喋りでもして
気長に待っていましょうか~。