1. ……お、アッシュ。どうしたんだ? 資料の山と睨み合いなんかして。
  2. 軍の調練記録に、各都市の租税の記録…… 何か調べ物なら手伝ってやるが。
  3. いえ、調べ物ってわけじゃないんです。 ただ勉強のために、と思って……。
  4. 勉強……?
  5. はい。士官学校が休止になっちゃって、 きちんと学ぶ機会もなかったので……
  6. こうやっていろんな記録を読んで、 せめて少しでも勉強できたらと思って。
  7. ほーん……。 お前は立派だなあ。
  8. はあ……あちこちで揉め事が起きてなければ 俺たちも学校生活を楽しめたんだろうが。
  9. そうですね。みんなと一緒に訓練したり、 魔道や歴史の授業を受けたりとか……
  10. そうそう。星辰の節には、 可愛い女の子を誘って舞踏会、とかな!
  11. なに浮ついたこと言ってるんですか……。
  12. ところでアッシュ、その記録ってのは 何かの役には立ちそうか?
  13. はい! 特に調練の記録なんかは、 眺めているだけで面白いですよ。
  14. ふうん……眺めているだけで、ねえ。 そりゃあちょっともったいないと思うぜ。
  15. 例えば、その調練記録だと……1166年、 北方三家の合同で行われた大規模演習。
  16. 悪天の中で行われたとしか書いていないが、 実際は猛吹雪の中での雪中行軍だった。
  17. 死者が出るほど厳しい演習だったらしいが、 これが何のための演習だったか、わかるか?
  18. 雪中行軍……? 1166年…… あ、もしかしてスレンとの戦いに備えて?
  19. ご名答。数年後に予定されていた 北征に備えての訓練だったわけだ。
  20. つまり1166年には、すでに大規模な 征伐が計画されていたってことで……
  21. それを踏まえて近い時期の訓練を見ると、 先王陛下が何を考えていたのかもわかる。
  22. だとすると、別の資料に書かれている ゲネウラで行われた訓練っていうのは……
  23. スレンの連中が山を越えてきた時や、 岩砂漠での戦闘も想定してたんだろう。
  24. なるほど……だから訓練の内容も、 騎馬を使わないものに偏ってるんですね。
  25. 凄いな。そうやって照らし合わせると、 人の思惑みたいなものが見えてくる。
  26. それが記録の価値ってもんだからな。 さて、これ以上お前の邪魔をしても……
  27. あっ、待ってください! 良かったら、 他にもいろいろ教えてもらえませんか!
  28. いやあ……教わるんだったら俺なんかより、 学者とかの類いを頼ったほうがいいぜ。
  29. 王都にいる時にはそれでもいいですけど、 行軍中ともなるとそうもいきませんし……。
  30. 僕、もっと学びたいんです。 陛下の騎士として恥ずかしくないように。
  31. そんな目で見るなよ。断れないからさあ。 ……あんまり期待はしないでくれよ?