1. ………………。
  2. 珍しいわね。 戦術の教本を読んでいるの?
  3. しかも、その本…… まさか士官学校時代を、懐かしんで?
  4. ……懐かしむような過去ではない。
  5. そうかしら。腕の立つ武術師範として、 貴方は意外なほどに慕われていたわよ。
  6. 私たちの担任になって、いろいろな役目を 果たしてもらう予定だったけれど……
  7. 士官学校がすぐに休止になったから。 それでも、最低限の働きはあったわね。
  8. ………………。
  9. ……相変わらず寡黙ね、貴方は。
  10. 出会ったばかりの頃と比べれば、 少しは何を考えているかわかるけれど。
  11. ………………。
  12. その沈黙は、「わかってもらう必要もない」 といったところでしょう。
  13. まったく貴方らしいわ、“エミール”。
  14. ………………。
  15. その名で……私を呼ぶな。
  16. ……エミール=フォン=バルテルスは、 もう死んだ、と?
  17. バルテルス家の人々を残らず惨殺した廉で、 追っ手によって討伐された。
  18. ……そうあるべきだった。
  19. 本当にそれでいいのかしら。 私は納得しなかった。だから……
  20. 貴方は生きている。フリュム家の嫡子、 イエリッツァ=フォン=フリュムとして。
  21. そして、“死神騎士”としても。 いずれも私の道にとって、欠かせない者よ。
  22. ……あの魔性の力まで欲する、か。 強欲な女だ……。
  23. 奴の渇きは……永遠に満たされん。 斬れば斬るほど、人から遠のく……。
  24. ふふ……貴方の話を聞いていると、 “死神”こそが強欲に思えるけれど。
  25. いつの日か、その刃が私に向く時が 来るかもしれないわね。
  26. ……皇帝は、私の主だ。 今のところはな。
  27. 奴に狩り場を与えてくれたことには…… 感謝している。……お前を斬りはしない。
  28. 感謝も何も、初めからそういう契約だもの。 互いの利害を一致させるためのね。
  29. これからも力を貸してちょうだい。 貴方も、“死神”も……。
  30. ………………。