- よう、イグナーツ。どうだ?
あれから、調べは進んだか?
- はい。少しずつですけど、あの絵について
わかってきたことがあるんです。
- まず、この絵画が描かれた年代ですね。
使われている画布や、顔料の色を見ると……
- およそ、200年前の作品だと思います。
大修道院に士官学校が設立された頃ですね。
- へえ……! 流石だな、イグナーツ。
そんなにはっきりした時期までわかるのか?
- はい。最も特徴的なのは、この女性の服に
使われている、鮮やかな青の顔料ですね。
- これはパルミラのほうで産出される宝石を
砕いて作った貴重なものなんですよ。
- フォドラに入ってきたのは、200年前に
パルミラの大攻勢があってからで……
- ああ、なるほど……。だから少なくとも、
その前の作品ではないってことだな。
- はい。それから画布の……っと、いちいち
話していたら長くなっちゃいますね。
- シルヴァンくんのほうはどうでしたか?
王都の教会で、書物を当たったそうですが。
- とりあえず、聖人関係の列伝を読んできた。
やっぱり鳥と言えば聖マクイルだが……
- 聞いて驚け。200年ぐらい前にいた
ある大司教に、こんな逸話があったんだ。
- 病弱で在位期間も短かったのか、
俺も聞いたことのない名だったが……
- その方が亡くなられた日には、白い鳥が
大修道院の城郭に集まって嘆いたそうだ。
- 200年前……! もしかすると、
それがこの方なのかもしれません。
- ああ、俺も驚いたよ。年代といい、
偶然の一致とは言えない気がするな。
- だけど……時の大司教にしては、
すごく素朴な衣装を着ている気がします。
- それなんだよ。何でだろうな? 普通、
大司教ってもっと豪華な服を着てるだろ。
- これは肖像画というより……この方の、
逸話を描いたものなのかもしれませんね。
- 例えば、貧しい人たちに施しをしたとか、
きらびやかなものを好まなかったとか……。
- あるいは他ならぬ本人が、こういった
素朴な姿の肖像を残すのを望んだとか。
- ……まあ、これは根拠なんてない、
ただのボクの想像なんですけどね。
- 大司教ってのもまあ、推測だしなあ。
前提が間違ってるって可能性も大いにある。
- ん? 大司教? ……大司教か。
やっぱり、レア様に似てるような……。
- うーん……確かにそれはそうですけど……
でも、流石に他人の空似じゃないですか?
- 大司教は世襲じゃないですし、血縁という
可能性はほとんどないと思いますけど……。
- そうか。まあ、そうだよな。流石に全体的な
雰囲気のせいだろう、きっと。
- ……しかし、そんな絵がうちの実家に
眠っていたとはな。正直驚きだよ。
- お前に見せて良かった! そうでなきゃ、
俺はずっともやもやしたままだったな。
- あ、ありがとうございます……!
ボクも、この絵に出会えて良かったです。
- 素晴らしい芸術に出会えたという意味でも、
君を知ることができたという意味でも。
- 君は、ボクの想像していたより、
ずっと話しやすくて面白い人でしたから。
- ははは、なら誤解が解けたようで何より。
これからも末永く、仲良くしてくれよな。
- はい。こちらこそ!