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待たせたな、ローレンツ。 何だよ、俺に話って。まさか恋の悩みか?
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違う。ミルディン大橋の一件から連なる、 諸々の戦略についての話だ。
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そのことか……謝罪ならいくらでもするよ。 お前にも、お前の親父さんにもな。
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名門グロスタール伯爵家に裏切者の 汚名をかぶせちまった。申し訳ない。
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よせ、謝罪ならすでに受けている。 それに父とも合意の上だったのだろう?
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幸い、僕自身は清廉なままだ。 家名についた傷もすぐに返上してやるさ。
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それなら何の話だっていうんだ?
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……君に、確かめておきたいことがある。 レスター諸侯同盟領の未来に関わる話だ。
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………………。
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クロード、僕らは君を信じて 本当にいいのだろうな?
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確かに、ここまでの君の働きによって、 同盟領は窮地を脱することができた。
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しかし、僕は昔から君が信用ならない。 今もだ。信用したいが、できないでいる。
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不安なのだよ。どこから来たのかも曖昧な、 君のような男に頼るしかないのだからな。
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……相変わらず手厳しいな、ローレンツ。
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まあ、お前の気持ちは理解できるよ。 俺だって、俺みたいな男は信用ならない。
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ふん……。
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こんな奴に、自分や大切な家族の未来を 託せるかと聞かれれば、答えは否だな。
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ずいぶんと自分を卑下するのだな。
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いやいや、ちょっと言い過ぎた。 俺はそこまで酷くないよな?
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だが……俺は全知全能の女神様じゃない。 未来を見通す力なんざ欠片もないんだ。
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だから、あらゆる可能性に備えて、 手札を増やしておくことしかできない。
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………………。
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可能性は無限にある。いくら手札を 増やしたって不安を完全には拭えない。
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自分を信用できないと言ったのは、 そういうことだよ。毎日が綱渡りで……
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………………。
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おい、ローレンツ。さっきから黙っているが 俺の話をちゃんと聞いてるのか?
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……君が僕に胸中の不安を吐露するなど、 意外過ぎて言葉が出なかった。
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まさか、これも君の謀略の一つか? この僕を誑かして、いったい何を……
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待て待て。落ち着け。 話を振ってきたのはお前だろうが。
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正直に答えてやったってのに、 その態度は流石に酷いんじゃないか?
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いや、しかしだな。 調子が狂うというか、いや……困ったな。
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困ってるのはこっちだっつうの……。