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はあ……死ぬかと思いましたよ。 敵陣であんな罠に引っかかるとはね。
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君らしくもない失態だな。 だが、よく生きて戻った。
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ははは、正直自分でも信じられませんよ。 ……ほんとにまだ生きてますか、俺。
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死にかけた経験はたくさんありますけど、 今回は中でも二番目くらいに危なかった。
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ほう、二番目か。 となると一番目は何だ?
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そりゃもう、ガキの頃に流行り病にかかって 医者も金もねえってなった時ですかね。
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ファーガスの流行り病か……。 当時はかなり猛威を振るっていたと聞く。
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王妃でさえも命を落としたそうだが、 よく医師にもかからずに生き残ったものだ。
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本当に。あの爺さんが助けてくれなかったら とっくに死んでたでしょうね。
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ではその老人が、 医師だったというわけか。
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いやあ……それはないと思いますけどね。 母さんが拾ったよぼよぼの行き倒れですよ。
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まともに歩けもしねえ有り様だったんで、 しばらくうちで面倒見てたんですけど……
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俺が流行り病にかかって、母さんが 手を尽くしてもどうにもならなくて……
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そんな時、爺さんが俺を助けてくれた。 どんな方法を使ったかはわかりませんけど。
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……そうか。 その老人は、今?
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あっはは、とっくの昔に死にました。 何年前の話だと思ってるんですか。
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そうか、ではやはり彼が……
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……君の話を聞いて、 私も一つ思い出したことがある。
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不治の病人が紋章の力を与えられた途端に 完治して、やがて十傑の一人となった……
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そういう話がかつてあったのだ。 荒唐無稽とも言い切れまい。
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はあ……えっと、ちょっと話に ついていけてないんですけど……
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つまりあの爺さんが、俺を助けるために 紋章の力を与えたってことですか?
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そのような可能性もある、という話だ。 もっとも、ただの推測に過ぎないがね。
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……いや、いやいやいや、待ってくれ。 そりゃあそう考えれば辻褄は合うが。
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そうなるとあの爺さんが、女神様の 使徒か何かだったってことになっちまう。
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はは……だとしたら俺は十傑と同じように とんでもねえ歳まで生きかねねえってか?
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さあ、その老人が亡くなられたという今、 それを確かめることは誰にもできん。
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だが、君が彼に救われたのは確かなのだ。 その命は、大事に使いなさい。
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戦場でも、慎重に振る舞うといい。 今回のようなことがいつ起こるとも限らん。
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……ですね。ご忠告痛み入ります。 俺にはまだやるべきことがありますしね。
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今日は早く戻って休むといい。 長話に付き合わせてすまなかったな。
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……自分の血を呪い続けた君は、 最期にその血であの子の命を救ったのだな。
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君が最期に救いを得たと知って安心したよ。 我が友オーバンよ……どうか、安らかに。