- ……ただ今参りました。
遅参をお許しください、陛下。
- いや、構わない。貴公も多忙だったろう。
悪いが、会議は先に始めていた。
- 帝国による、中央教会への
宣戦布告について……ですね。
- ああ。今も、ガルグ=マクから逃れてきた
者たちの受け入れを進めてはいるが……
- 数日前、セテス殿から内々に、大司教ら
教団関係者の身柄の保護を依頼された。
- 万一ガルグ=マクが陥落した場合……
という条件つきではあるがな。
- 実質的に帝国と教団との板挟みになった今、
これ以上の静観を貫くことはできない。
- 陛下、たとえ教団からの要請であっても、
やはりそれは拒否すべきです。
- 彼らを受け入れるということは、
帝国に侵略されるということなのですから。
- 確かに南方教会の存在は気にかかりますが、
今はそこに拘泥すべき時ではありません。
- エリデュア子爵の仰ることもわかりますが、
私にはそう単純な話とは思えませんね。
- ファーガスはその政体上、国王や封建領主の
正統性を教団によって裏付けられている……
- 何の見通しもなく、ただ帝国の侵略を恐れて
己の正統性を否定すれば、どうなりますか?
- ………………。
- いずれ、国は必ず乱れます。その時に
苦しむのは誰か、子爵もおわかりでしょう。
- 他人事だからそのように言えるのです。
北方は戦火を被らずに済むでしょうからね。
- 確かに、我々北部諸侯の言葉には
何の重みもないかもしれませんが……
- このままガルグ=マクが陥落すれば、
戦禍を被るのは西部だけではありません。
- ローベやガラテアといった南部諸侯の態度は
どうなっているのですか、陛下。
- ローベ伯からは返答を得られなかったが、
ガラテア伯からは書簡が届けられている。
- 「民とて、領土を侵略者に明け渡すのを
手放しで喜べるほど愚かではない……」
- 「人々の生活基盤を担っている教会を
切り捨てるべき道理はない」……だそうだ。
- ……陛下、我々は2年前の内乱の折、
中央教会に対して大きな借りを作りました。
- 恩人を売るような真似をすれば、国内諸侯も
陛下に対する不信を募らせるでしょう。
- そうなれば、また2年前と同様に
内乱が起こる可能性もある……。
- ブレーダッドの紋章の有無さえ問わなければ
王家の血を引く人間は決して皆無ではない。
- そうした者を担いで国が割れるのは、
賢王クラウスの死後にも起こったことです。
- ですが公爵、我々は起こるかもわからぬ
内乱より、眼前の戦乱を避けたいのです。
- 俺とて戦乱で民を苦しめたくはない。だが、
それは帝国の要求さえ呑めば済む話なのか。
- 仮に大司教を帝国に差し出し、
南方教会を受け入れれば何が起きる?
- 帝国は、大司教に代えて南方教会の司教を
聖教会の首座に据えるつもりなのでしょう。
- ですが、その司教となったヴァーリ伯や
南方教会そのものにも良い噂は聞きません。
- 建前上はセイロス教の宗派の一つですが
南方教会は実質、皇帝直属の組織です。
- 中央教会を拒み、南方教会を受け入れるのは
帝国の支配を受け入れるのと同義。
- 彼らがファーガスの地をどう扱うかは、
実際に支配を受けてみるまでわかりません。
- 帝国のためにと、ファーガスに苛税を課して
搾取に搾取を重ねることもあり得るのです。
- ………………。
- ……フラルダリウス公、
どうやら何か言いたいようだな。
- いえ……陛下もいつまで、この冗長な
茶番に付き合うおつもりかと思いまして。
- 要は、このファーガスを潰して帝国に
臣従するという道があるか否か、でしょう。
- ……帝国に従えばどうなるかは、
先ほど辺境伯らが口にしたとおりだ。
- 皇帝は、国内で急速に改革を進めている。
俺としても、倣うべき部分はあると思う。
- ……だが、その拙速なやり方は
王国の旧く、凍った大地にはそぐわない。
- 今、ファーガスの民が必要としているのは
自立や自由、劇的な変革ではなく……
- 生活を向上させるための地道な積み重ねだ。
変革は、その基盤の上にしか成り立たない。
- 最早、我々は陛下の決裁に従うまで。
選ぶべき道が決まっているなら、ご指示を。
- ………………。
- ファーガス神聖王国は教団を受け入れる。
皆、己が武器を研いで戦いに備えよ。
- ギュスタヴ、ドゥドゥー、早馬の用意を。
各地にこの旨を伝えねばならない。
- 聖教会と帝国だけでなく、ローベ伯はじめ
招集に応じなかった諸侯にも余さずに、だ。
- はっ。お任せください。