- 2年前は、こんな戦争が起こるなんて
思いもしなかったな。
- 2年前は、こんな戦争が起こるなんて
思いもしなかったわね。
- それはそうだね。だけど君にとっては、
好都合な状況じゃないのかい。
- 好都合?
- 好都合って?
- 戦争となれば、実力のある傭兵団は
嫌でも表舞台に出てくるだろう。
- そして、君はそういう者たちと
正面から戦えるだけの人員も確保している。
- 頷く
- たしなめる
- ああ、ジェラルト傭兵団だな。
確かにお前の言うとおりだ。
- ああ、ジェラルト傭兵団よね。
確かにあなたの言うとおりよ。
- 人員って言い方はないだろ?
傭兵上がりの俺を信頼してくれる、仲間だ。
- 人員って言い方はないでしょ?
傭兵上がりの私を信頼してくれる、仲間よ。
- けど、ジェラルト傭兵団については
そのとおりだな。
- でも、ジェラルト傭兵団については
そのとおりよね。
- あの時の借りを返す、またとない機会。
君の健闘を祈っているよ。
- おいおい。
健闘だけじゃなく、勝利を祈ってくれよ。
- ちょっと。
健闘だけじゃなくて、勝利を祈ってくれる?
- あはは、もちろん祈っているとも。
君は、僕の運命共同体なのだからね。
- ……では、やはりコルネリアはいまだ
西部に身を潜めていると見ていいだろうな。
- おおかた、マテウス子爵かギディオン子爵が
潜伏に協力しているのでしょう。
- とはいえ、疑わしい諸侯らを片っ端から
滅ぼして回るわけにもいきませんしね。
- そうだな……そう簡単に片づく話ではない。
だが、この2年で駒は揃えてきたはずだ。
- ドゥドゥー、まずはプライデリ家に連絡を。
兵を入れて敵を牽制しなくてはなるまい。
- は……。承知しました。
- こちらにはマテウス子爵の令息もいるし、
ギディオン子爵の娘はガラテアの騎士だ……
- 現在の状況下で、国内の問題に割ける
兵力は限られている。……手段は選ぶな。
- ……すべての責は俺が負う。今はただ、
百の敵の血をもって、千の味方の命を守れ。
- 御意のままに。
……陛下、あまり思い詰められませんよう。
- ……誇り高き騎士の王も、
随分と悪辣になったものだな。
- ……フェリクスか。何の用だ?
- 別に。お前の疲れた顔を笑いに来ただけだ。
- やはりお前には冷徹な王を演じるなど、
どだい無理な話だったのだろうと思ってな。
- いい加減、性分に合わん謀や
損得勘定なんぞ諦めたほうが……
- フェリクス。
いい加減、俺を過大に評価するのはやめろ。
- 俺は今も昔も変わっていない。
お前が見た、血塗れの復讐鬼のままだ。
- ………………。
- すべての罪ある者に相応の報いを与え、
すべての死者の無念を晴らす。
- 暴くべきを暴き、殺すべきを殺す。
……そこに慈悲など無用だ。
- それがこの国に生きる人々を守ることに
繋がるのなら、尚更迷う必要はない。
- チッ……貴様という奴は。
近頃は幾分かまともになったかと思ったが。
- 俺はこの手で伯父を殺した。王として、
将として、多くの人々を死に追いやった。
- 多くの大事な者たちを……眼前で死なせた。
俺は彼らの死に、責任を負わねばならない。
- ……安心しろ、フェリクス。お前たちを、
俺の贖罪に付き合わせるつもりはない。
- フン……猪に何を言っても無駄か。
- ところで、今日は随分と
城下が賑わっているようだが?
- ああ、今日はレア様や教団の方々が
王都を見舞ってくださっていてな。
- お前も帰りしなに城下を回っていくといい。
……良いものだぞ、人々の笑顔というのは。