1. 父上……ただ今、戻りました。
  2. うむ……。
  3. 偽りの臣従、ミルディン大橋の急襲、 父上の采配は実に見事でした。
  4. ですが、なぜ僕にまで黙っていたのですか。 知っていれば、僕も父上と共に……
  5. そうはいかない。デアドラが陥落していれば 私はこのまま帝国に降るつもりだった。
  6. 裏切者の汚名を被るのは私一人で十分…… お前はあくまで清廉であるべきなのだ。
  7. 名門グロスタール家の嫡子としてな。
  8. 父上……
  9. しかし、クロードは恐ろしい男だ。 今回は奴の口車に乗せられ策に従ったが……
  10. 結果、我が領内の一部が戦場となり、 領民を危険に晒すこととなってしまった。
  11. ですが……今回の戦果を踏まえれば、 被害は微々たるものであったはずです。
  12. その微々たる被害を無視しては領主失格…… という感覚は、クロードにはないのだろう。
  13. それは……。
  14. ローレンツよ、私はこれ以上、 あの危険な若者に従う気はないぞ。
  15. まさか……同盟を離脱するおつもりですか?
  16. そうではない。 私はもう引退させてもらう。
  17. 父上!?
  18. 私はあの盟主と共に歩んではいけない。 たとえ同盟を救えるのがあの男だとしても。
  19. お前なら、私よりも上手くクロードと 付き合えるだろう?
  20. 僕に当主を継げ、と…… 本当に、それでよろしいのですね?
  21. ローレンツ……我が息子よ、これまで お前には私の思想を押しつけてきたが……
  22. それも今日までだ。今後はお前自身の 信念に従って行動することだ。
  23. ただし、グロスタール家が守るべき 領民のことを決して忘れてはならぬぞ。
  24. 承知いたしました。グロスタール家当主の 大役、謹んでお受けいたしましょう。