- ………………。
砂、風、雨……天気の話、です?
- さっきから、うんうん唸って……
どうしたのかな。
- リンハルト……よいところ、来ました。
これ、わたし、理解、悩みます。
- それって、手紙?
あれ、君は読むのは問題なかったよね。
- はい、読めます。しかし、意味、理解する、
できません。あなた、読む、願います。
- ええ、君への手紙なんでしょ?
誰からか知らないけど、遠慮したいなあ。
- それでは、返事、できません。
わたし、教える、頼みます、リンハルト。
- 仕方ないなあ……。
じゃあ読むけど……。
- なるほど、これは確かに読めない。
古めかしい表現の羅列だね……。
- 『果てなかりし砂の大地ありて、
此の身もいずれ砂とならざらむ。』
- 『嗚呼、西風よ。慈の雨を運びたもうたか。
我が喜びは溢れる河面がごとくなりけり……』
- ……うん?
ひょっとして、これ恋文なんじゃ……
- 恋文、愛の告白、ですか?
……可能性、ある、あります。
- それならそうと先に言ってほしかったなあ。
まあ、見てしまったものはしょうがないか。
- はい、仕方ありません。
- 恋文、読めない、より、意味、成さない、
成しません。伝わる、役目、大事です。
- いや、わかるけど……
僕は全然読みたくないからね。
- それで、あなた、意味、理解する、しました?
わたし、教授、求めます。
- はあ……そうだね。これは古い比喩を使って、
手紙の送り主が君への愛を綴っているんだ。
- 綴り過ぎていて、ちょっと心配になるけど。
- 愛、熱烈、ですか? 構いませんが、
わたし、相手、ほとんど、知りません。
- ほとんど知らないの?
毎日会っているかのような文章だよ。
- しかも、技法的にもいろいろと間違っていて、
よろしくない出来だね……。
- ブリギットを意識したんだろうけど、雨を
運ぶのは西風じゃなくて南風だし……
- そもそも「慈の雨」は女神からの贈り物だ。
君の譬えとしてはかなり無礼だろう。
- それに、自分を砂の大地に譬えているのに、
急に河が現れて氾濫してる……滅茶苦茶だね。
- 技法、難しい、思います。
しかし、リンハルト、あなた、詳しいです。
- いや、僕もたいして詳しくないよ。
そんな僕がわかるほど、酷い文章ってこと。
- それで、返事はどうするつもり?
- わたし、未熟、痛感しました。感謝、です。
フォドラの古い表現、勉強します!
- まさか、勉強して古風な返事を返すつもり?
そのやり取り、成立するかな……。