- 早いものだな、アッシュ。
お前を騎士に任じて、もう1年半か。
- 慣れない土地で働くのは、何かと
大変だろう。困っていることはないか?
- いえ、そんな。王都の皆さんは、
みんな親切にしてくれますし……
- 強いて言うなら、僕なんかに騎士が
務まるのか、まだ不安だってくらいで。
- 今、ブレーダッド家に仕えている騎士は
俺の代になって城に入った者がほとんどだ。
- 即位以前から俺と共に戦ってくれたお前が
今更、引け目を感じる必要はないだろう。
- は、はい……でも、僕は貴族の生まれでも、
紋章持ちでもないですし……。
- そんな僕を取り立てていただいたご恩は、
この命を懸けてお返しするつもりです。
- ………………。
時にアッシュ、騎士とは何だと思う?
- えっ? 民や王、ひいては国を守るために
命を懸けて戦う者……でしょうか。
- そうだな……。確かに、それこそが
騎士のあるべき姿だと皆は言うが……。
- 現実は、そう美しいものではない。
突き詰めれば、騎士とは人を殺める者だ。
- 騎士道が忠義を説くのは、騎士を統制し
主君に背かぬようにするために過ぎない。
- それは……確かに、
そうなのかもしれませんが……。
- 騎士道を奉じるのは構わないが、
命を懸けてまでそれを貫く必要はないな。
- ………………。
- 俺の親友は、王家に仕える騎士だった。
歳が近くてな。良い奴だったよ。
- だが、俺の目の前で死んだ。逃げることなく
果敢に戦って、当然のように殺された。
- ロドリグさんから聞いたことがあります。
フェリクスの、お兄さんの話ですよね……。
- ……ああ。今でも俺の耳には、
あいつの死に際の声が聞こえる。
- 忠誠か、己の命かを選ばされる日が、
お前にもいつか訪れるかもしれない。
- その時には、己の命を選んでほしい。
身勝手な願いだとはわかっているがな。
- でもそれで、万が一僕が陛下に
弓を引くようなことがあったら……?
- 俺を討てないのなら、黙って戦場を離れろ。
……そんな日が来ないよう祈っているがな。
- わかり……ました。……でも一つだけ、
失礼を承知で申し上げます。
- きっと、あなたを守ったその人は、
騎士だから命を投げ出したんじゃない。
- たとえ何を犠牲にしても、親友のあなたを
守りたかったんだと思います。
- 生きてさえいれば訪れたはずの、
あらゆる未来を閉ざしても……か?
- ……僕にも、その人の行いが
正しかったのかはわかりません。
- だからこそ僕も、陛下が望まれるのなら
決して命を捨てないと約束します。
- だけど、大事な人のために戦いたいって思い
自体は……間違ってないと思うんです。
- ……そうか。
そうなのかもしれないな……。
- ……さて、そろそろ俺は調練に行くよ。
兵を待たせるわけにはいかないし……
- お前たちの忠誠に値する主君で在れるよう、
努めねばならないからな。
- ……努めるも何も、最初から陛下は
僕たちにとって、自慢の王様なのになあ。