1. 待たせたな、ローレンツ。 何だよ、俺に話って。まさか恋の悩みか?
  2. 違う。ミルディン大橋の一件から連なる、 諸々の戦略についての話だ。
  3. そのことか……謝罪ならいくらでもするよ。 お前にも、お前の親父さんにもな。
  4. 名門グロスタール伯爵家に裏切者の 汚名をかぶせちまった。申し訳ない。
  5. よせ、謝罪ならすでに受けている。 それに父とも合意の上だったのだろう?
  6. 幸い、僕自身は清廉なままだ。 家名についた傷もすぐに返上してやるさ。
  7. それなら何の話だっていうんだ?
  8. ……君に、確かめておきたいことがある。 レスター諸侯同盟領の未来に関わる話だ。
  9. ………………。
  10. クロード、僕らは君を信じて 本当にいいのだろうな?
  11. 確かに、ここまでの君の働きによって、 同盟領は窮地を脱することができた。
  12. しかし、僕は昔から君が信用ならない。 今もだ。信用したいが、できないでいる。
  13. 不安なのだよ。どこから来たのかも曖昧な、 君のような男に頼るしかないのだからな。
  14. ……相変わらず手厳しいな、ローレンツ。
  15. まあ、お前の気持ちは理解できるよ。 俺だって、俺みたいな男は信用ならない。
  16. ふん……。
  17. こんな奴に、自分や大切な家族の未来を 託せるかと聞かれれば、答えは否だな。
  18. ずいぶんと自分を卑下するのだな。
  19. いやいや、ちょっと言い過ぎた。 俺はそこまで酷くないよな?
  20. だが……俺は全知全能の女神様じゃない。 未来を見通す力なんざ欠片もないんだ。
  21. だから、あらゆる可能性に備えて、 手札を増やしておくことしかできない。
  22. ………………。
  23. 可能性は無限にある。いくら手札を 増やしたって不安を完全には拭えない。
  24. 自分を信用できないと言ったのは、 そういうことだよ。毎日が綱渡りで……
  25. ………………。
  26. おい、ローレンツ。さっきから黙っているが 俺の話をちゃんと聞いてるのか?
  27. ……君が僕に胸中の不安を吐露するなど、 意外過ぎて言葉が出なかった。
  28. まさか、これも君の謀略の一つか? この僕を誑かして、いったい何を……
  29. 待て待て。落ち着け。 話を振ってきたのはお前だろうが。
  30. 正直に答えてやったってのに、 その態度は流石に酷いんじゃないか?
  31. いや、しかしだな。 調子が狂うというか、いや……困ったな。
  32. 困ってるのはこっちだっつうの……。