1. ふ……何か言いたげね。
  2. ……折角、話をする機会を得られたのに いざ相対してみると難しいものだと思って。
  3. 俺たちが腹を割って話し合うには 少しばかり、人が死に過ぎた。
  4. そうかしら。 私はそうは思わないけれど。
  5. でも……貴方にしてみれば、“人を死なせ 過ぎた”私に割る腹はないのでしょう。
  6. だとしたら、後は交わらぬ互いの道を、 ただ信じて進んでいくだけよ。
  7. そういうつもりで言ったのではない。 ……だが、結局はそこに帰着するのだろうな。
  8. 俺は、己の選んだ道を正しいとは思わない。 だが相応の覚悟を持って、選んだつもりだ。
  9. ……私も、道を選べているといいのだけど。
  10. まあいいわ。こうして口を動かすより、 足を動かしたほうがきっと有意義よ。
  11. ……そうだな。だがその前に、 一つだけ俺の質問に答えてほしい。
  12. 皇妃アンゼルマの…… 母親の行方を、知っているか。
  13. どうして私にそんなことを?
  14. 皇帝ならば、彼女の行方を知っていると 言った者がいた。……大方、妄言だろうが。
  15. そう。私が彼女を最後に見たのは…… もうずっと前の、子供の頃よ。
  16. 帝国を追放される直前の……。 その後のことは貴方のほうが詳しいのでは?
  17. そうか。……そうだよな。
  18. ありがとう、答えてくれて。……さて、 まずここを抜け出す方法を見つけなければ。
  19. ええ、何においても、 外へ出ないと始まらな……くっ!
  20. ……いきなり揺れたな。
  21. はあ……本当に何なのかしら、 この空間は……。
  22. 立てるか、エーデルガルト。
  23. ええ、ありがと……あ。
  24. ……今ばかりは、互いの立場など 気にしても仕方がないだろう。
  25. ……そうね。 気にしないことにしましょう。
  26. ふと、昔のことを思い出したわ。 子供の頃にね。
  27. しゃがみ込んだ私の目の前に、急に手が 現れて……思わず手を取ってしまった。
  28. 相手が誰かを確かめもせず…… 成長していないわね、私も。
  29. ………………。
  30. ディミトリ? どうかしたの?
  31. ……いや。俺も、いつかこうして誰かに 手を貸してやった記憶があるなと思って。
  32. 貴方は、しょっちゅうやっていそうよね。
  33. 誰に手を貸したのか、すべてを覚えては いないんじゃないかしら。
  34. ……生憎と俺は、大事な相手の顔を 簡単に忘れられるような性質ではないのでな。
  35. さあ、これ以上、無駄口を叩いていたら 二人に呆れられてしまうわ。
  36. この空間を、脱しましょう。
  37. 戻ったところで、私が無事でいられる 保証はないけれど、ね。
  38. ………………。
  39. ディミトリ、何をしているの? 置いていくわよ。
  40. ああ、行こう。……エル。