- フェリクス、そこに座れ。
- 俺は忙しい。先に用件を言え。
- お前という奴は……まあいい。お前とは
改めて、話をしておくべきだと思ってな。
- 互いに明日の無事も知れん身の上なのだ。
後悔のないように振る舞わなくてはならん。
- チッ、縁起でもない。
……それで、何だ。
- グレンのことを、謝ろうと思ってな。
あの時は……すまなかった。
- ………………。
- あれは少なくとも、お前の目の前で
口に出すべき言葉ではなかった。
- ……フン。申し開きがしたいのなら、
聞いてやらんこともないが。
- 悪いな。では遠慮なく話させてくれ。
……私とて、グレンの死は無念だったさ。
- 壮絶な死だったのだろう。……だがそれは、
あいつが選んだ生き方であり、死に方だ。
- 最期の血の一滴まで、グレンは友を、
ファーガスの未来を守るために戦ったのだ。
- グレン自身が選んだ死に方を、
父親の私が認めてやらずにどうする。
- なぜ、それが兄上自身の選択だとわかる。
俺にもあんたにもわからんことだろう。
- まあ猪ならば知っているのかもしれんが、
奴は自分が死なせたとしか言わんからな……
- そうだな。グレンが何を考え、どんな思いで
死んだのかは、推し量ることしかできん。
- だが惨劇の場に居合わせたのが私ならば、
そしてお前ならば、何を選んだと思う?
- 生き延びるために陛下を置いて逃げたか?
それとも最期まで戦うことを選んだか?
- 私ならば必ず陛下を守る。
グレンも逃げ出すような性格ではなかった。
- あんたの尺度で物事を測るな。
少なくとも俺なら前者も後者も選ばん。
- 生きるか死ぬかの時に、いちいち
最期までどうたらなどと考えていられるか。
- 俺は俺の意志で、俺の思うまま戦う。
そうして……奴と共に生き延びてやる。
- ……ふっ。まったく、強欲なものだ。
そう言ってのけるお前を、誇らしく思うぞ。
- 私があの戦場に居合わせても、そんな
無茶を通そうとは思えなかっただろうよ。
- あいつのために死ねるのならば、
それが一番だとさえ思ったかもしれん。
- ……あんたの考えも理解はできる。
いや……最初からわかってはいた。
- ただ、美辞麗句で飾られた死が、
どうしても認められなかっただけだ。
- すまなかったな、フェリクス。
- もういい。
……こうしてあんたと話せてよかった。
- それから、その……後悔をしないように
振る舞わなければならん、と言っていたな。
- だったら謝っておく。
あの時はぶん殴って悪かった。……父上。
- ああ、あの時の! あれは本当に効いたな。
戦場で受けたどんな一撃よりも効いたぞ。
- うるさい。もう謝ったからな。
話が終わったのなら、俺はもう行く。
- ………………。