- ふむ、過去にはこのような事例も……。
なるほど……。
- こんな夜更けまで、熱心ですな。
- っ!? ……ヒューベルトか。
君こそこんな夜更けに何を?
- またエーデルガルトにも知らせず、
新たな悪だくみでもしているのかね?
- 失礼な決めつけはやめてもらえますかな。
くく……何か根拠でもあるので?
- む……いや、それはないが。
確かに、決めつけてすまなかった。
- いえいえ……悪だくみはしていましたので、
謝罪は不要ですよ。
- そうか。
……って、やはりしていたのではないか!
- それで、何を熟読していたので?
- ヒューベルト、私の話を……
- 判例を集めた本、ですかな。
しかも帝国貴族を裁いた例の。
- あ、ああ……
我が父との決着を、見据えてね。
- 法の定めるところに従えば、反逆は死罪だ。
しかし実際の運用はそうなってはいない。
- 特に貴族は、助命されている例が多い。
最近になればなるほどな。
- 爵位の返上だの、財産や情報の提供だの、
それまでの功をもって贖うだの……
- ありとあらゆる言い訳を駆使して、
貴族は生き延びようとします。
- 手足をもごうとも死なず、地下深くに
幽閉しようとも這い出てくる……
- 息の根を止めない限りは、ですな。
- ……前ベストラ候のように、かね?
- さて、あの男が皇帝に正しく仕えず、反逆と
取られかねない行動を取ったことは……
- 紛れもない事実です。
- ならば……
- だが、彼は残念ながら捕縛の際に抵抗し、
不幸な事故が起きて命を落とした。
- 彼が果たして反逆の罪を犯していたかなど、
すべては闇の中。証明しようもありません。
- それは詭弁ではないか。罪あるがゆえに
貴殿が討ったと、誰もが思っているぞ。
- 貴族として、正しく彼を公の場で
裁くべきだった。そうではないのか?
- そうしようとして、父に逃げられたのは
どこの誰でしたかな。
- 息の根を止めぬ限り、生き足掻く……
- 貴族とはそういう生き物だと、
先程言ったでしょう。
- だからこそ私は、こうして父の逃げ道を
塞ぐために過去の事例を調べているのだ。
- 再起などさせない。
私は父を、正しく断罪する。
- だから私は、再び父を捕らえた時に、二度と
逃がさぬよう過去の事例を調べているのだ。
- 再起などさせない。
私は父を、正しく断罪する。
- ……仮に、父が兵を挙げるような
真似をすれば、戦場で討ち取るしかないが。
- くくく……できますかな、貴殿に。
- できるできないではない。
……この手で、始末をつける。
- そうせねば、私は許せぬのだ。
- 己がエーギル公爵位を継ぐことも、
宰相の座に就くことも……。
- くくくくく……
それを決めるのは陛下ですよ。
- ですが、陛下の利になるのであれば、
貴殿の覚悟は歓迎されるでしょうな。