1. 夜の散歩にお付き合いいただき ありがとうございます、お嬢さん。
  2. ううん。誘ってくれて嬉しいわ~。 私、夜のお散歩って結構好きなの。
  3. 月や星がとっても綺麗に見えるし、 夜にしか咲かない花だってあるのよ~。
  4. へえ、そりゃあいい! 君らしい素敵な趣味じゃないか。
  5. ありがとう。 それで、話って何かしら~?
  6. あー、その……君の、縁談についてさ。 君はどう考えてるのかと思って。
  7. あら! よく知っているわね~。
  8. 何しろ相手はうちの領内の小領主だ。 俺のところにも話は入ってくるさ。
  9. 君は、受けるつもりなのかい? まあ俺も、 あいつは悪い奴じゃないとは思うが……
  10. う~ん……そうね~……。 養父の意向だもの。仕方ない、とは思うわ。
  11. もちろん、できるなら受けたくはないわ。 私には、まだやりたいこともあるし……。
  12. でもね、今回ばかりは どうしようもなさそうなのよね~。
  13. 嫌なら断ればいいんじゃないか? 今までだって何度も断ってるんだろ。
  14. あんまり何度も断ったものだから、 とうとう養父も痺れを切らしてしまって。
  15. 先に相手に話を通したみたいで、 簡単には断れなくなっちゃったの~……。
  16. 酷い話だな。君自身の意志はお構いなしか。 君が紋章を持って生まれたからって……
  17. 生まれてくる場所は、選べないわ。 花が咲く場所を選べないのと同じ。
  18. 飢えや乾きに苦しまずに済むのだから、 窮屈な場所だろうと文句は言えないわよ~。
  19. それは私もあなたも同じこと…… みんな、生えた場所に咲くしかないのよ。
  20. 確かに、花は咲く場所を選べないよな。
  21. 死ぬまで自分の行きたい場所にも行けず、 環境が悪ければそのまま枯れていくだけだ。
  22. けど俺たちの足は根っこじゃない。自分で 足を動かして、好きな場所に行けるんだ。
  23. 上手く立ち回れば、自分のやりたいことを 諦めなくていいかもしれないんだぜ。
  24. う~ん……上手く立ち回ると言っても、 いったいどうしたらいいのかしら……?
  25. 縁談を立ち消えにするってだけなら…… 例えば、俺が君に結婚を申し込むとか。
  26. え、え~っと……? 縁談を立ち消えにするために、結婚……?
  27. あ、あーその……これは断じて、君を 口説いてるとか、そういうのじゃないんだ。
  28. ただ、ゴーティエの嫡男である俺が 君に結婚を申し込めば……
  29. 相手も引かざるを得なくなるだろう。 まあ多少関係は悪くなるかもしれないが。
  30. その後は、君のやりたいようにやればいい。 教会で働こうが、何になろうが構わないさ。
  31. でも、そうしたらシルヴァンは、好きな 相手と結婚できなくなっちゃうわよ~?
  32. ははは、本気で言ってるわけじゃないさ。 ただ、やり方はいろいろあるって話だ。
  33. ……ふふ。あなた、結構したたかよね~。 そういうところ、私は好きよ。
  34. お褒めに与り光栄だ。……もし俺の力が 必要な時は、いつでも言ってくれよな。