- 夜の散歩にお付き合いいただき
ありがとうございます、お嬢さん。
- ううん。誘ってくれて嬉しいわ~。
私、夜のお散歩って結構好きなの。
- 月や星がとっても綺麗に見えるし、
夜にしか咲かない花だってあるのよ~。
- へえ、そりゃあいい!
君らしい素敵な趣味じゃないか。
- ありがとう。
それで、話って何かしら~?
- あー、その……君の、縁談についてさ。
君はどう考えてるのかと思って。
- あら! よく知っているわね~。
- 何しろ相手はうちの領内の小領主だ。
俺のところにも話は入ってくるさ。
- 君は、受けるつもりなのかい? まあ俺も、
あいつは悪い奴じゃないとは思うが……
- う~ん……そうね~……。
養父の意向だもの。仕方ない、とは思うわ。
- もちろん、できるなら受けたくはないわ。
私には、まだやりたいこともあるし……。
- でもね、今回ばかりは
どうしようもなさそうなのよね~。
- 嫌なら断ればいいんじゃないか?
今までだって何度も断ってるんだろ。
- あんまり何度も断ったものだから、
とうとう養父も痺れを切らしてしまって。
- 先に相手に話を通したみたいで、
簡単には断れなくなっちゃったの~……。
- 酷い話だな。君自身の意志はお構いなしか。
君が紋章を持って生まれたからって……
- 生まれてくる場所は、選べないわ。
花が咲く場所を選べないのと同じ。
- 飢えや乾きに苦しまずに済むのだから、
窮屈な場所だろうと文句は言えないわよ~。
- それは私もあなたも同じこと……
みんな、生えた場所に咲くしかないのよ。
- 確かに、花は咲く場所を選べないよな。
- 死ぬまで自分の行きたい場所にも行けず、
環境が悪ければそのまま枯れていくだけだ。
- けど俺たちの足は根っこじゃない。自分で
足を動かして、好きな場所に行けるんだ。
- 上手く立ち回れば、自分のやりたいことを
諦めなくていいかもしれないんだぜ。
- う~ん……上手く立ち回ると言っても、
いったいどうしたらいいのかしら……?
- 縁談を立ち消えにするってだけなら……
例えば、俺が君に結婚を申し込むとか。
- え、え~っと……?
縁談を立ち消えにするために、結婚……?
- あ、あーその……これは断じて、君を
口説いてるとか、そういうのじゃないんだ。
- ただ、ゴーティエの嫡男である俺が
君に結婚を申し込めば……
- 相手も引かざるを得なくなるだろう。
まあ多少関係は悪くなるかもしれないが。
- その後は、君のやりたいようにやればいい。
教会で働こうが、何になろうが構わないさ。
- でも、そうしたらシルヴァンは、好きな
相手と結婚できなくなっちゃうわよ~?
- ははは、本気で言ってるわけじゃないさ。
ただ、やり方はいろいろあるって話だ。
- ……ふふ。あなた、結構したたかよね~。
そういうところ、私は好きよ。
- お褒めに与り光栄だ。……もし俺の力が
必要な時は、いつでも言ってくれよな。