1. 今日も……お疲れ様でした。 いつもありがとうございます。
  2. いえいえ。 少しでも役に立ててるなら嬉しいです!
  3. 「そこの丸いヤツ、飼い葉を寄越せ」? そ、そんな失礼な言い方、駄目よ……。
  4. すみません……。この子、すっかり イグナーツさんに慣れてしまって……。
  5. いえ、慣れてくれるのは大歓迎です! 丸いヤツって呼び方は、残念ですけど。
  6. ……その、イグナーツさんは何で、 ずっと天馬の世話を……?
  7. 絵を描くだけなら、こんなに頑張らなくても いいと思うんですが。
  8. そうですね……。 夢のため、でしょうか。
  9. 君が拾ってくれた絵、あれはボクが幼い頃、 母と乗った天馬を想って描いたんです。
  10. お母様と、ですか……?
  11. ええ。母は昔、天馬騎士だったみたいで。 興味を持ったボクを乗せてくれました。
  12. でもいざ飛び立ったら物凄く怖くて、 夢中で母の腰にしがみついて……
  13. ふと気づいたら、ボクの目の前には呆気に 取られるほどの景色が広がっていたんです。
  14. 地上からでは見えない、雄大なレスターの 大地は……ボクの心を強く震わせました。
  15. それで、絵を……。
  16. いや、天馬騎士になろうと思ったんです。 子供の頃の、他愛もない夢の一つですが。
  17. その後すぐ、天馬は大人の男を乗せない 生き物だと母に教えてもらって……。
  18. まあ、そうですよね……。
  19. 天馬騎士になる夢は叶いませんでしたが、 想像の中でなら僕は何にでもなれる……
  20. こうして天馬に触れることで、より鮮明に 大空を駆ける自分を想像できるんです。
  21. ……まだ天馬に乗りたいという気持ちを 大切に持ち続けているんですね。
  22. 私には……イグナーツさんの熱い想い、 絵を通じて確かに伝わりました。
  23. えっ、ぼ、ボクの想いですか!? 伝わったって……
  24. はい。イグナーツさんが天馬のこと、 とても想っているって、伝わりました。
  25. あ、そういう意味ですか……。
  26. その想いがもし通じていたら、この子も あなたのことを乗せてくれるかも……。
  27. え、いや……。 それはないんじゃないですか……?
  28. でも、すごく慣れてきていますし、 何より……私が見たいんです。
  29. イグナーツさんの夢が叶うところ…… 夢なんて、叶わないって思ってたから……。
  30. マリアンヌさんにそう言われたら、 断れませんね。わかりました。
  31. お願いします。ボクを……この丸いヤツを、 空へと運んでくれませんか?
  32. えっ、ちょっと、あっ、 ちがっ! 違いますよ! そうじゃなくて!
  33. うわああああ! 確かに飛んでるけど、違いますううう!
  34. イグナーツさんの服をくわえて、 飛んでいってしまうなんて……。
  35. ああ……服が破れて、 落ちたりしないでしょうか。
  36. これじゃ景色を見る余裕なんて……! 助けて、マリアンヌさん!