- うんうん、美味しいです。やっぱり帝国の
お菓子は甘くて素晴らしいですね。
- テフはいかがですか?
甘すぎるお菓子には最適ですが。
- えっ。
いえ、遠慮しておきます。
- というか、そんなものよく飲めますね……
苦味しかないじゃないですか。
- まあ、子供の舌には合わぬでしょうな。
この苦みや深いコク、わずかな酸味は……。
- おっと、これは子供扱いではありませんよ。
単に舌の話ですから。
- わたし、舌も子供じゃないので。
ちょっと貸してみなさい。
- ごくり……うっ!?
げほっ、げほっ、うええ……。
- リシテア殿、大丈夫ですか?
ほら、こちらで口を拭いてください。
- ……無謀な挑戦でしたな。
飲みたければ、手を加えることです。
- 砂糖と山羊の乳はどうですか。
甘くまろやかになると思いますが。
- ……入れます。
ください。
- わたし、最近、気になっていることが
あるんですけど……。
- ほう、何でしょう。
- あんた、わたしにだけ甘くないですか?
人と比べても、明らかにおかしいでしょ?
- 左様ですか。陛下から貴殿の体には特に気を
遣うよう命じられているためでは?
- え? そうなんですか?
いえ、だとしても……
- それだけのはずがありません。
どう考えても、もっと甘いです!
- ………………。
- 心当たりはありますが、他言無用ですよ。
情報が漏れたら、消しますので。
- 消すって……わかりました。
秘密にすればいいんですね。
- ええ、そうです。
- ………………。
- 実は……私には貴殿と同じ年頃の妹が
いましてな。
- 性格もよく似ているので、つい世話を
焼いてしまうのではないかと。
- はい? あんたに、妹!?
初耳なんですけど!
- それはそうでしょう。弱点となり得る家族の
存在は、可能な限り秘匿していますので。
- 妹のみならず、私の母も、弟のことも……
貴殿は何一つ知らないのでは?
- そういえば、そうですね……。貴族である
あんたが、天涯孤独のはずはないですし。
- でも、仲間にもこんなに徹底的に隠して
いるなんて……本当に驚きました。
- まあ、そのようなわけで、無意識の内にも
私は貴殿に目をかけてしまうのでしょう。
- ということは、私は子供扱いじゃなくて
妹扱いされているわけなんですね?
- 確かにあんたは結構、大人ですし、
それなら許せるかもしれませんけど……。
- いえいえ、妹以外を妹扱いなどしたら、
本物の妹から激怒されてしまいますよ。
- なので、もう少し己を戒めて、子供扱い
以外はしないようにしますとも。
- そうですか。
まあ、あんたの妹が怒るなら仕方ない……
- って、今、子供扱いするって言いました!?
- おっと、口が滑ってしまいましたか。
私の舌もまだまだ子供なようですな。