- おーっほっほっほ! この前の戦いでは
大活躍でしたわね、アネット!
- コンスタンツェにそう言われると
なんだか余計に照れちゃうかも。
- 魔道学院の歴史に残る“伝説の先輩”に
褒めてもらえるなんて、嬉しいな!
- “伝説の先輩”? 何ですの、それは。
私が伝説的なのは確かではありますけれど。
- いろんな武勇伝が伝わってたよ。それこそ、
どこまで本当なのかわからない話まで……。
- 学院で幅を利かせていた貴族の子たちを、
魔法で全員馬に変えちゃったとか。
- それは……もしや、私が創出した「どこから
ともなく馬の鳴き声が聞こえる魔法」では?
- 完成した喜びのあまり、所構わず使って
いましたら、そのような誤解が……おほほ。
- すごく成績優秀で、魔道学院の先生たちと
持論をぶつけ合って言い負かしたとか。
- 言い負かしたとは人聞きが悪いですわ!
あれはそう、「私」の片鱗とでもいう……
- まったく、その程度の些事で伝説などと
仰らないでほしいですわね。
- あはは……でも、話を聞いた感じだと
似たようなことはあったんだね……。
- そんな伝説の先輩と一緒に戦える日が
来るなんて……ちょっと緊張しちゃうよ。
- 謙遜も程々にしなさいな。貴方の名こそ、
王国きっての才媛と轟いていましたのよ。
- さ、才媛って……恥ずかしいよ。
学院の先生から話を聞いていたとか?
- いえ、私は読んだのですわ。貴方が学院の
在籍中に記したという伝説の書物を。
- 書物……? ……あっ! まさか!?
それ、本っていうか、何というか……。
- あたしがメーチェから教えてもらった
お菓子の作り方の、覚え書き……だよね?
- ええ! 『魔法でたのしいお菓子作り』!
あの書物は私の心を震わせましたわ!
- 本来、複雑な調理技術が必要になる工程を
魔法によって省略する画期的な方法が……
- わーーーーっ!? ちょっと待って!
何でそんな本が出回ってるの!?
- 確かに先生には、書いてある魔法について
発表してもいいかって聞かれたけど!?
- 氷と風の魔法を独特な発想で融合させ、
外はふわふわ中はさくさく……
- 甘さと柔らかさとまろやかさを兼ね備えた
途轍もないお菓子が王都に誕生しましたわ。
- あれを誇らずして、何を誇るのです! 魔道
学院の設備が必要なのが、難点ですけれど。
- あはは……まあ、別にいいけど……。あれは
あたしだけの力で書いたものじゃないし。
- 魔法はともかく、お菓子の作り方自体は
メーチェが教えてくれたわけだしね……。
- ふふっ、お姉様のお菓子の美味しさと
言ったら、フォドラで一番ですわよね!
- うんうん。硬めに焼いた生地の間に、
お砂糖を混ぜた牛酪を挟んだやつとか……
- な、何ですの、それ! 新作かしら!?
私もお姉様に作ってもらいたいですわ……。
- メルセデスお姉様のお菓子……。
懐かしいですわ。絶品でしたわよね。
- ……うん。硬めに焼いた生地の間に、
お砂糖を混ぜた牛酪を挟んだやつとか……
- うふふ……初めて聞きましたわ。
もう二度と、食べられないのかしら……。
- ……とにかく! これからも、
よろしくお願いしますわね、アネット。
- 貴方とならば、いろいろと研究について
有意義な議論が交わせそうですわ!