1. ……これにて終幕でございます。 ご観覧、心より御礼申し上げます。
  2. ………………。
  3. ………………。
  4. マヌエラ、お疲れさん。 いいもの見せてもらったよ。
  5. 本当はもっと本格的にやりたかったけど、 悪くはなかったでしょ?
  6. ああ。しかし、なんでまた 俺に歌劇なんか見せたんだ?
  7. これはね、実は[BYLETH_MF]が 言い出したことなの。
  8. あいつが……?
  9. ごめんなさい。前に聞いた奥さんとの話、 あの子にも話しちゃったの、あたくし。
  10. お前、勝手に……
  11. 私が酔って絡んでも、嫌な顔ひとつせず 聞いてくれるから、話が止まらなくて……
  12. 正直、話した記憶も飛んでたんだけど、 次の日にね、あの子に言われたの。
  13. 記憶が飛ぶほど飲むなって……。 で、あいつは何て?
  14. それが、奥さんが観られなかった分、 あなたに歌劇を観てもらいたいって。
  15. ……あいつがそんなことを?
  16. そんな健気なこと言いそうにない子でしょ。 不意を突かれて、感動しちゃったのよね。
  17. あたくしとしても、あなたの心の隙間を 埋めてあげたいって気持ちがあったし……
  18. それで、あの子も演者に加えて、 暇を見つけては稽古していたのよ。
  19. そうか……お前も忙しいだろうに、 あいつに付き合わせてすまなかったな。
  20. お陰で本家にも劣らねえ良い歌劇だったよ。 女房へのいい土産話ができたぜ。
  21. ちょっと、本家は観たことないんでしょ? それに、何なの? その言い方……
  22. まるで、もうすぐ死んじゃうみたい。 そんなの許さないわよ、あたくし。
  23. あの子と2人でこの戦争を生き延びて、 奥さんの分まで長生きなさいな。
  24. よろしくて? 約束よ?
  25. ああ、わかった。
  26. ……とは言えねえな。 今は戦争中で、しかも俺は傭兵団の頭だ。
  27. 明日、生き残れるかもわからねえ。 そういう身の上なんでね。
  28. 確かに、それじゃ仕方ないわね。
  29. ……とは言えないわよ、あたくしも。 意地でも生き残ってもらわなくっちゃ。
  30. それで、戦争が終わったら、もう一度 あたくしの歌劇を観てほしいの。
  31. ちゃんとした舞台で、楽器の演奏付きで。 きっと、感動で涙が止まらなくってよ?
  32. その後で、もう一度あなたを口説かせて。 じゃないと諦めきれないもの。
  33. お前、まだそんなこと言ってるのか。 こんな老いぼれ、やめとけってのに。
  34. いいから、約束なさいな。奥さんのこと、 忘れられないならそれでも構わなくってよ。
  35. 奥さんもあの子のことも、全部まとめて あたくしの大きな愛で包んであげるから。
  36. でも、それまでは飲み友達でいましょう。 今夜も付き合ってもらうわよ? うふふ。
  37. やれやれ、強引に約束させられちまったか。 だが、約束した以上は守らねえとなあ。
  38. ……シトリー、どうやらお前の元に行くのは もう少し後になりそうだ。