1. こんなところにいたんですか。 探しましたよ、ヒューベルト。
  2. 私に何の用で? エーデルガルト様がお呼びですか。
  3. ちょっと、そんなことのためにあたしを 使うはずないでしょう?
  4. ただ、お礼を言っておこうと思って。 ……不本意ですけど。
  5. 礼を言われるようなことをした記憶が ありませんが。
  6. そうでしょうね。優秀なあなたにとっては ただの事務処理の一環でしょう。
  7. あたしがまとめた報告書の不備を、陛下が 見る前に修正してくれたことへのお礼です。
  8. 後で気づいて訂正しに行ったら、すでに 訂正されていて恥ずかしかったですけどね!
  9. そんなこともあったかもしれませんな。
  10. 陛下が目を通す必要のないものを除くのも、 私の従者としての役目ですから。
  11. しかし、ちらと目を通しただけで気づく ような誤りを貴殿がするとは……
  12. 気が緩んでいるのではありませんか? 皇帝いちの臣下を自称しておきながら。
  13. 誤りについては返す言葉もありません。 ですが、自称なんてしていません!
  14. いえ、その、勢いでしたことはあったかも しれませんが……無意味なことです。
  15. 陛下にとって一番の家臣は、従者である あなたなんですから。
  16. ベストラ家との取り決めなんてなければ、 あたしが従者にだって……
  17. ………………。
  18. 今の貴殿に、陛下の従者が務まるとは 思えませんな。
  19. なっ!?
  20. 確かに私は自分の意思で従者になったわけ ではない。初めは、ただの父の命です。
  21. ですが、そのような関係は最早、意味を 成していないと言っても過言ではない。
  22. 私は皇帝に従っているのではありません。 ただエーデルガルト様に仕えているのです。
  23. 主従の契約を越え、私はあのお方と共に ある……それがわかりませんか。
  24. あたしだって、もっと陛下と一緒に いたかった!
  25. でも、男爵の子に過ぎないあたしが、宮城で 勝手に振る舞うことなど許されません。
  26. 屋敷も城下にありますし、領地にだって 度々帰る必要がありました。
  27. 用がなくてもずっと陛下と一緒にいられる あなたとは違うんです!
  28. それはそうでしょうな。
  29. オックス領は帝国の西の果て…… 帝都にいない期間も長かったかと。
  30. それに、貴殿はゆくゆくは領主となる身。 常に皇帝のそばに控えるわけにも……。
  31. そうですね。あなたと違ってあたしには、 守るべき領民もいますから。
  32. でも、あたしは諦めませんよ。
  33. 離れた場所からだって、いや、だからこそ 陛下をお守りできることもあるはずです。
  34. ずっとそばにいるだけでは、逆に見落とす こともあるでしょうしね。
  35. くくく…… それは頼もしいですな、モニカ殿。