1. ユーリス、少し良いだろうか。
  2. おっと……何かご用ですか、セテスさん。 仕事の話なら別の場所で聞きますけど。
  3. いやなに、そんな話ではない。 君が学者と話しているのを見かけたのでね。
  4. 随分と真剣に聞き入っていたようだから、 何を話していたのか気にかかったのだ。
  5. え、ああ……まあ、セテスさんなら 知っていて当然の話だと思いますけど。
  6. フォドラ十傑の伝承について、 ちょっと教えてもらってたんですよ。
  7. ほう、勤勉だな。 素晴らしいことだ。
  8. 勤勉も何も、貴族なら持ってて当然の教養が 俺には備わってなかったってだけの話です。
  9. ……十傑は主より紋章の力を授かり、 フォドラの地に迫った邪悪を討ち払った。
  10. そしてその力は、英雄たちを定命の肉体から 解き放ち、死の淵からも救い上げた……。
  11. そう伝わっているな。紋章を持つ者の中には 常人より長く生きる者もいるというし……
  12. 一説によれば、解放王ネメシスは 数百年もの時を生きたとも言われている。
  13. へえ……。
  14. だが、なぜそのようなことに 興味を持ったのだ?
  15. あー……セテスさんになら、まあいいか。 自分が何者かを、知りたかったからですよ。
  16. セテスさんの立場なら、俺が持ってる 紋章についても知ってるでしょう。
  17. ああ。君が士官学校に 入学してきた時は驚いたものだ。
  18. 何しろすでに失われたはずの、 オーバンの紋章を持っていたのだから。
  19. ……けど、その紋章がどこから来たのか、 俺にはさっぱり見当がつかないんですよ。
  20. まあ、母親の身分が身分ですから、 自分の父親がどこの誰かもわかりませんし。
  21. 紋章の存在を知るまでは、自分が母さんの 息子ってのは疑ってなかったですけど……
  22. 知ってからは、自分のすべてに 確証が持てなくなっちまったというか。
  23. そうか……君自身にも、 その紋章の由来はわからないのだな。
  24. 十傑は、紋章の力を生まれながらに 持っていたわけじゃないって話ですけど……
  25. もしかしてそういう線もあるかなと思って、 十傑の伝承を調べてたんです。
  26. ……君の紋章がどのようなものであれ、 主からの授かり物であることには違いない。
  27. その血に宿る力に感謝し、大事にするのだ。 そうすれば、いずれ道は見えてこよう。
  28. あっはは、経典どおりの励ましをどうも。 それじゃあ俺は用事があるので、これで。
  29. ………………。