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……差し入れだ、イングリット。
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ドゥドゥー。ありがとうございます。 あら、美味しそうなお菓子ですね!
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助かります。ちょうど作業が、 行き詰まっていたところでしたので。
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作業……それは、報告書か。
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はい。先日、ダスカー地方での戦闘が あったでしょう。その時の報告です。
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……大変な戦いでしたよね。ダスカーの 安定には、まだまだ時間がかかりそうです。
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もちろん、あの事件に関与した者を 捕らえられたのは喜ばしいことですが。
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……ダスカーの民にも、 いろいろな者がいるからな。
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わかっています。彼らも、私たちのような 王国の民と何も変わらないのですから……
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善人も、悪人もいるでしょう。……問題は、 悪人の咎を善人にまで押しつけたことです。
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……仕方のない話だ。 人とは……そういうものだと思う。
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おれも……故郷を焼いたファーガスの 者たちが憎くないと言えば、嘘になる。
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だが、陛下とともにファーガスで 過ごすうち、いろいろな者がいると知った。
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………………。
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おれだけでなく陛下にまで石を投げ、 罵倒するような者たちもいれば……
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ダスカーの民であるおれに、 気安く話しかけてくる者たちもいた。
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……私は、それすら知ろうとしなかった。 本当に……。
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あなたと出会わなければ、たとえ陛下が あなたたちの無実を訴えても……
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私は、いまだ頑なにあなたたちを憎み、 恐れ続けていたかもしれません。
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……だが、お前はそうならなかった。 一歩を踏み出し、歩み寄ってくれた。
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おれが言うべきことではないだろうが…… お前は、立派だと思う。
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いえ、立派だなんて。 今の私はまだまだ未熟者ですよ。
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……あ、そうだ。この作業が終わった後、 ちょっと街へ食事に行きませんか?
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ああ。構わんが……。
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実は先日、美味しい食事を出す宿場へ 陛下が連れていってくださったんです。
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宿場の主人がダスカーの方なのですが、 どの料理も絶品で……。
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もしドゥドゥーが嫌でなければ、 ぜひ一緒に行ってみませ……
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待て、イングリット。
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は、はい。……嫌でしたか? それとも何か他の予定があったとか。
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……いや、そういうわけではない。だが、 陛下が連れていってくださったと言ったな。
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えっ? はい。陛下にとっては、 随分と馴染みの宿場だったようですよ。
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……作業が終わり次第、呼んでくれ。 おれは……陛下と話してくる。
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イングリットと一緒だとはいえ、あまり 軽率に出歩かれないようお伝えしなければ。
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……秘密にしておくべきだったかしら。 すみません、陛下……。