- 2年前は、こんな戦争が起こるなんて
思いもしなかったな。
- 2年前は、こんな戦争が起こるなんて
思いもしなかったわね。
- そうだね。でも君にとっては
好都合な状況じゃないのかい。
- 好都合?
- 好都合って?
- 戦争となれば、実力のある傭兵団は
嫌でも表舞台に出てくるだろう。
- そして、君はそういう者たちと
十分に戦えるだけの人員も確保している。
- 頷く
- たしなめる
- ああ、ジェラルト傭兵団だな。
確かにお前の言うとおりだ。
- ああ、ジェラルト傭兵団よね。
確かにあなたの言うとおりよ。
- 人員って言い方はないだろ?
傭兵上がりの俺を信頼してくれる、仲間だ。
- 人員って言い方はないでしょ?
傭兵上がりの私を信頼してくれる、仲間よ。
- けど、ジェラルト傭兵団については
そのとおりだな。
- でも、ジェラルト傭兵団については
そのとおりよね。
- あの時の借りを返す、またとない機会。
君の健闘を祈っているよ。
- おいおい。
健闘だけじゃなく、勝利を祈ってくれよ。
- ちょっと。
健闘だけじゃなくて、勝利を祈ってくれる?
- あはは、もちろん祈っているとも。
君は、僕の運命共同体なのだからね。
- ……理解してもらえましたか。
- 理解はしたが確約はしかねる。すまないが、
私は未だ君を信頼するに至っていない。
- 判断し、選択するのは私だ。今後の戦況を
見て、な。……では、失礼するよ。
- あ、父上……!
- 盟主殿との話は済んだ。
私は先に戻っている。
- クロード、大丈夫か?
揉めてたように見えたが……
- クロード、大丈夫なの?
揉めてたように見えたけど……
- いやいや、ちょっと歓談してただけさ。
グロスタール伯は愉快な御仁だからな。
- ……笑えない冗談だ。
- 久しぶりだな、ローレンツ。
無事でいてくれて安心したよ。
- そろそろ無事では済まなくなる。
帝国軍が北上を始めたからな。
- それで、父とは何を話していたんだ?
- 万一、帝国軍のレスター侵攻を許した場合、
同盟諸侯はどう動くべきか……そんな話さ。
- 父は何と?
- さあね……はぐらかされたよ。
- だろうな。嫡子である僕にすら、
腹の内を明かすことのない人だ。
- ……ローレンツ、この先どうなっても
お前はあの人に従うつもりでいるのか?
- それは、どういう意味だ?
- 例えば……あの人が帝国に寝返ると決めたら
お前も帝国につくのか?
- ……!
- クロードは、グロスタール伯が裏切ると
思ってるのか?
- クロードは、グロスタール伯が裏切ると
思ってるの?
- まさか。例えばの話さ。
- なら、その例は失礼だろ?
ローレンツを怒らせたいんじゃないよな。
- なら、その例は失礼でしょ?
ローレンツを怒らせたいんじゃないわよね。
- ……いや、いいんだ。これまでの
父の言動を踏まえれば、当然の危惧だろう。
- だが、父とて同盟諸侯としての矜持がある。
簡単に帝国に転ぶなどあり得ないさ。
- 僕は、父を信じている。
- ……ローレンツ、お前の親父さんは
立派な貴族だよ。それは俺も認めてる。
- ま、向こうが俺のことを、なかなか
認めてくれないわけだが……切ないねえ。