1. ふっ! はっ! だっ! せええいっ!
  2. ……今日はこのくらいにしておくか。
  3. 見事な槍さばき、 流石は文武兼備の貴族ですな。
  4. ヒューベルト…… 君は相変わらず神出鬼没が過ぎるな。
  5. 鍛錬中に突然現れては、誤って槍で 突かれても文句は言えないぞ。
  6. そうですな。 訓練中の事故は、よくあることですから。
  7. 仮に貴殿が私をここで突き殺したとしても、 ただの事故で片づけられるでしょうよ。
  8. ヒューベルト。 冗談でもそういう話はやめてくれ。
  9. いや、先に軽口を叩いたのは私だったな。 すまなかった。
  10. ……はあ。 素直に謝られても反応に困りますがね。
  11. ともあれ、貴殿の訓練は近頃、 鬼気迫るものがありますな。
  12. 何が貴殿をそこまで駆り立てるのか、 少々気になって様子を見に来たのです。
  13. 当然だろう。この戦争もいよいよ佳境を 迎えたと私は見ている。
  14. なればこそ、いっそう気を引き締め、 勝利へ向け邁進していかねばなるまい。
  15. 仲間のため、帝国のため、 より良き未来のため。
  16. そして……亡き父のため、ですかな。
  17. 父の? なぜそう思うのだね?
  18. 帝国を支え、私が憧れた父は、 遥か昔にいなくなった。
  19. メリセウス要塞にいたのは、生き方を 見失った、ただの反逆者だった。
  20. そんなものを今更……
  21. フェルディナント殿。
  22. 否定するのであれば、ただ「違う」と 口にすればいい。
  23. 言葉を重ねては、逆に真実だと 認めているようなものですよ。
  24. そんなつもりは、まったくない。 ないが……
  25. 心のどこかで、そう思っている可能性は 否定すまいよ。
  26. 貴殿は変わりましたな。 いや、本質は何も変わっていない。
  27. しかし、頑なな本質はそのままに、 随分と柔軟な顔を持つようになった……。
  28. 君は変わらないな。 私が無知だった頃から……
  29. あの頃から真っすぐに、エーデルガルトと 二人、ただこの道を進んできた。
  30. だが今はその道を、皆が歩んでいる。 君たちは、その先頭にいるのだ。
  31. 何が言いたいので?
  32. その道の先頭に、私も加わるぞ。 皇帝の左右に並び立つ二人となるのだ。
  33. それが私と君…… すなわち、“帝国の双璧”だ!
  34. ……“帝国の双璧”、ですか。 くくくく……くははははははは!
  35. ふははは! ……少し笑い過ぎではないかね?