- ……ううむ。
僕もそろそろ決めなくては……。
- あれー? ローレンツくん、どうしたの?
すごく難しい顔してるねー。
- ……ん?
ああ、ヒルダさん。
- ちゃんと休んでるー?
あんまり根詰めて考えても疲れちゃうよー。
- お気遣いに感謝する。
だが、そうも言ってはいられないのだよ。
- これは内々の話なのだが……、どうやら
父は僕に爵位を譲りたがっているようでね。
- 君も知ってのとおり、僕はすでに
グロスタール家の当主の座にある。
- ということはだ、僕は妻となる相手を
見つけなければならない。これは急務だ。
- それは大変そうだけど……
難しい顔して考えてたのは、そんなこと?
- 悩まなくたって、ローレンツくんなら、
すぐに良い人が見つかると思うよー。
- それはどうかな。グロスタールは名家だ。
その妻ともなると条件も厳しい……
- 相手にも、僕と共に重責を背負い、誇り高き
貴族として生きることを求めねばならない。
- そんな女性がいればいいのだが……
そういえば、ゴネリル家はどうなんだ?
- あたしの家?
- ああ、君のお父上はホルスト卿を嫡子と
定めている。近いうちに爵位を譲るのか?
- そうなった時、君は去就をどうするのかと
思ってね。
- ああ、君のお父上は先日、ホルスト卿に
ゴネリル公爵位を譲っただろう。
- 君は去就をどうするのかね?
- ええ? 急に言われてもなー。
兄さんのこととあたしは関係ないでしょ?
- でも、そうだなー……思い切って、
旅にでも出ちゃおうかな?
- 各地を旅して、景色を見たり、
美味しいもの食べたり……。
- もちろんそんなの、この戦争が終わって、
落ち着いてからの話だけどねー?
- 旅、か……意外な答えだな。
- しかし、お父上やホルスト卿の
了承を得るのは容易ではあるまい。
- 旅には危険が伴うし、風土病やその土地を
治める者との軋轢なども考えられる。
- 君の性格的にも、一つのところに腰を据えて
好きなことをやるほうが合っていそうだが。
- 確かにそれはそうなんだけどね、
その時しかできないことってあるじゃない?
- 何だかんだ言って、父さんも兄さんも
あたしには甘いから、何とかなるよー。
- あ、でも、旅の行き先は、
暑すぎても寒すぎてもダメかなー。
- あたしって両方とも苦手だし……。
- ふむ……ならば、ちょうどいい場所を
僕は知っている。
- 領内には森や大河など多くの景観を持ち、
一年を通じて過ごしやすい気候であり……
- ゴネリル領から程近いため、君の家族も
安心できる、素晴らしい場所だ。
- もしかしてそれって……。
- もうおわかりかな?
我がグロスタール領だよ、ヒルダさん。
- そうねー。行き先の一つには、
考えてあげといてもいいかな。