1. ……ううむ。 僕もそろそろ決めなくては……。
  2. あれー? ローレンツくん、どうしたの? すごく難しい顔してるねー。
  3. ……ん? ああ、ヒルダさん。
  4. ちゃんと休んでるー? あんまり根詰めて考えても疲れちゃうよー。
  5. お気遣いに感謝する。 だが、そうも言ってはいられないのだよ。
  6. これは内々の話なのだが……、どうやら 父は僕に爵位を譲りたがっているようでね。
  7. 君も知ってのとおり、僕はすでに グロスタール家の当主の座にある。
  8. ということはだ、僕は妻となる相手を 見つけなければならない。これは急務だ。
  9. それは大変そうだけど…… 難しい顔して考えてたのは、そんなこと?
  10. 悩まなくたって、ローレンツくんなら、 すぐに良い人が見つかると思うよー。
  11. それはどうかな。グロスタールは名家だ。 その妻ともなると条件も厳しい……
  12. 相手にも、僕と共に重責を背負い、誇り高き 貴族として生きることを求めねばならない。
  13. そんな女性がいればいいのだが…… そういえば、ゴネリル家はどうなんだ?
  14. あたしの家?
  15. ああ、君のお父上はホルスト卿を嫡子と 定めている。近いうちに爵位を譲るのか?
  16. そうなった時、君は去就をどうするのかと 思ってね。
  17. ああ、君のお父上は先日、ホルスト卿に ゴネリル公爵位を譲っただろう。
  18. 君は去就をどうするのかね?
  19. ええ? 急に言われてもなー。 兄さんのこととあたしは関係ないでしょ?
  20. でも、そうだなー……思い切って、 旅にでも出ちゃおうかな?
  21. 各地を旅して、景色を見たり、 美味しいもの食べたり……。
  22. もちろんそんなの、この戦争が終わって、 落ち着いてからの話だけどねー?
  23. 旅、か……意外な答えだな。
  24. しかし、お父上やホルスト卿の 了承を得るのは容易ではあるまい。
  25. 旅には危険が伴うし、風土病やその土地を 治める者との軋轢なども考えられる。
  26. 君の性格的にも、一つのところに腰を据えて 好きなことをやるほうが合っていそうだが。
  27. 確かにそれはそうなんだけどね、 その時しかできないことってあるじゃない?
  28. 何だかんだ言って、父さんも兄さんも あたしには甘いから、何とかなるよー。
  29. あ、でも、旅の行き先は、 暑すぎても寒すぎてもダメかなー。
  30. あたしって両方とも苦手だし……。
  31. ふむ……ならば、ちょうどいい場所を 僕は知っている。
  32. 領内には森や大河など多くの景観を持ち、 一年を通じて過ごしやすい気候であり……
  33. ゴネリル領から程近いため、君の家族も 安心できる、素晴らしい場所だ。
  34. もしかしてそれって……。
  35. もうおわかりかな? 我がグロスタール領だよ、ヒルダさん。
  36. そうねー。行き先の一つには、 考えてあげといてもいいかな。