1. ……コルネリアは、そう言い残して死んだ。 俺は、皇帝から話を聞かねばならない。
  2. 妖婦の言を真に受けるつもりはないが…… エーデルガルトは、何かを知っている。
  3. あの一件に帝国が絡んでいたのは事実だし、 彼女が関与していても不思議ではない……。
  4. おい待て……その前にまず説明しろ。 皇帝がお前の義姉とはどういうことだ?
  5. え? ああ……すまない。 話すのは初めてだったな。
  6. えっと、つまりディミトリの父さんが 皇帝の母親と再婚したん……だよな?
  7. えっと、つまりディミトリの父さんが 皇帝の母親と再婚した……のよね?
  8. そういうことだ。継母の存在は、 公にできない事情があったがな。
  9. ……とはいえ、もう昔の話だ。信の置ける 相手だけに話す分には、問題ないだろう。
  10. 陛下、あなたの許しをいただけるのなら 代わりに私から経緯を説明しましょうか。
  11. ……そうだな。きっと、そのほうが早い。 お前のほうが父上との付き合いも長いしな。
  12. はい。……20年ほど前に王都で疫病が 流行し、先王陛下も奥方を亡くされました。
  13. 疫病の終息のため、先王陛下は各地から 学者や医師、魔道士を招聘し……
  14. その中にいた帝国の学者コルネリアが、 見事に疫病を終息させました。
  15. あ、聞いたことがあるわ~。確か、王都の 街並みを整備してくれたんでしたっけ。
  16. あたしたちが暮らしてた街を作った 人だと思うと、なんか複雑だよねえ……。
  17. “聖女”なんて呼ばれてたんでしたっけ。 それがどうしてああなっちまったのか……。
  18. 彼女は決して褒美を求めようとしなかった。 ……ですがある時、突然こう求めたのです。
  19. 褒美の代わりに、帝国にいた頃の友人を どうか助けてくれないか……とね。
  20. そうして、先王陛下とパトリシア様…… 皇妃アンゼルマが引き合わされたのですよ。
  21. いや、なぜ皇妃がそんなところにいる。 助けを求めていたとはどういうことだ?
  22. 詳しくは知らないが、政争に巻き込まれ、 後宮を追われたのだとは聞いた。
  23. 先王陛下は元々、困っている相手に 入れ込みがちな方でしたから……
  24. あれこれと世話を焼くうちに、 互いに情が湧いてしまったのでしょう。
  25. その情が愛だったのかどうかは、私にも わかりかねますが……そういうことです。
  26. ……今となっては、それもどこまでが コルネリアの謀だったのか、わからないな。
  27. 俺は継母の死について、知らねばならない。 そこには……あの一件の真相があるはずだ。
  28. コルネリアが誰の指図で動いていたのか…… エーデルガルトがどう関わっていたのか。
  29. それを知るためには、やはり 彼女から情報を得なくてはならない……。
  30. 敵国の皇帝から、話を聞く……ですか。 そんなこと、できるんでしょうか?
  31. だって皇帝は敵なんですよ。僕たちの 仲間を、たくさん殺してきた相手です。
  32. それは相手にとっての僕たちも同じで…… お互いに話なんてできないと思うんです。
  33. ……そうだな。
  34. 日々殺し合いを続けている敵同士だぞ。 そんな相手から話を聞くなどできるのか?
  35. 彼女は俺たちにとって、憎むべき宿敵だ。
  36. だが……もう、他に手がない。西部諸侯の 情報はもうほとんど絞り尽くしてしまった。
  37. そしてコルネリアも息絶えた今、 情報のあては帝国にしかない……。
  38. ……ギュスタヴ。お前は男爵らと共に、 西部の戦後処理に当たってくれるだろうか。
  39. はっ、承知いたしました。陛下はこのまま アリアンロッドへ向かわれるのですね。
  40. ああ。たとえ不落の城塞とはいえ、 猛攻に晒されればいずれは陥落する。
  41. エーデルガルトがどう出るかわからないが、 あの要衝は何としてでも守り切らねば……。