- ふふふ。
待っていたぞ、ペトラ。
- フェルディナント、用事、
何か、ありますか?
- ああ……こほん。
- おお、麗しき君よ、異国より来たりし姫よ♪
鋭き剣技の、鮮やかなる使い手よ♪
- 私と共に、いざ剣の腕を磨かん♪
- ………………。
- ………………。
- ……ど、どうかね?
ブリギットの習慣を、実践してみたのだが。
- ブリギットの……習慣、ですか?
- ああ、つい先日、書物を読んで知ったのだ。
- ブリギットでは、王の一族に
何らかのお願いをする時……
- 舞い、吟じながら、軽やかに願うと。
なかなか華々しい習慣だな。
- ……解せません。ブリギット、
そのような、習慣、ない、ありません。
- なに!? いや、しかし……ブリギットでは
歌や舞が重んじられているのだろう?
- はい、ブリギット、確かです。
精霊、捧ぐ、歌、舞、あります。
- 精霊に、捧ぐ?
ということは、王の一族とは関係ない?
- ……いえ、わかりました。
それ、誤訳、間違いないです。
- ブリギットの王、精霊、加護、願います。
その時、歌い、舞い、願う、します。
- 王、願われる、誤る、誤りです。
精霊に、王、願う、正しいです。
- 加えて、それ、特別な時のみ。
普通、突然、歌う、舞う、おかしいです。
- お、おかしい……。
いや、君の言うとおりではあるのだが……。
- ブリギットには、フォドラの常識では測れぬ
奇抜な習慣があるのかもしれないと……。
- フェルディナント、ブリギット、
愚か、思う、思っていますか?
- と、とんでもない。
いや、これは完全に私の落ち度だ。
- 私としたことが、愚かにも書物の記述を
鵜呑みにしてしまうとは……!
- あなた、気にする、必要ないです。
本、間違い、よくある、ありますから。
- しかし……フォドラの貴族、おかしな人、
書いてある、本、事実、でしたか。
- 貴族が、おかしな人!?
そんなことが書いてある本があるとは!?
- 「フォドラでは、貴族を、“奇人”と呼ぶ」
読みました。奇人、おかしな人、です。
- それを言うなら“貴人”であろう!
明らかに間違っているぞ!
- 冗談、です、フェルディナント。
わたし、間違い、気づいています。
- 奇人、貴人、違う、当然です。
わたし、本、騙される、騙されません。
- じょ、冗談!?
一杯食わされたというわけか……。
- くっ……もう騙されるのは、お腹一杯だ!
- 一杯、食わされ、お腹、一杯?
……見事な技術です!!
- い、いや、今のは偶然の産物で……。
まあ、君が喜んでくれる分にはいいが……。