1. ふああ、寝過ぎたな……。 釣りでもして目を覚ますか。
  2. リンハルト、話、聞きました。
  3. 藪から棒にどうしたの、ペトラ。 ……君も一緒に釣る?
  4. あなた、深き水、小さし分け身、沈めます。 流れたる、旅し、住み人、拐す、狙います。
  5. ……?
  6. わたし、遥か昔、童の頃より、 それ、いと、上手、なりけり、です。
  7. あなた、先達、この地、わたし、わからず、 共に、務める、願う、しましょう。
  8. ………………。 ふふ、はははっ……ああ、そうか。
  9. この前の手紙のせいだよね? 古風な表現を勉強するって言ってたし。
  10. それで、こうして話し言葉に混ざっちゃった わけか……。
  11. フォドラ、古い言葉……とても、難しい、 思います。話す、より、難解でした。
  12. それは難しいよ。 書くのだって大変なのに、よく話せるね。
  13. いやあ、凄いな、ペトラ。 まるで研究者だ。
  14. おそらくだけど、その言葉を話せる人は フォドラを探しても数えるほどしかいない。
  15. それこそ「女神が地上にいた」とされる ような時代の言葉だからねえ……。
  16. なるほど、稀少、話し手、ですか。
  17. わたし、フォドラの言葉、話す、 不得意です、でした。
  18. しかし、それ、上達するより先、女神の 言葉、身につける、しまう、驚愕です。
  19. 人には得意不得意があるからさ。 君に適性があったということだと思うよ。
  20. それにしても、フォドラの外から来た君が これほどの遣い手になるなんて、面白い。
  21. 面白すぎる。 くふふ……。
  22. リンハルト、先程から、笑う、不思議、 思う、思っていました。
  23. あなた、そこ、面白がる、いた、ですか。
  24. そりゃそうだよ。僕だって読むのがやっとの 言葉を君が使いこなしてるんだよ?
  25. これは僕のほうが、ペトラ先生にご教授を 願わなきゃいけないみたいだね。
  26. わたし、リンハルト、教える、ですか? それ、とても、嬉しいです。
  27. いつも、わたし、あなたから、教わる、 ばかり……。恩、返せる、良いです。
  28. こうなってくると、君をただブリギット王に しておくのは惜しいなあ。
  29. 今からでも遅くはない。 研究者を目指してみないかい?
  30. 研究者、ですか?
  31. そうだよ。研究者に必要なのは、 熱意……そして何より、運さ。
  32. 熱意と運、ですか?
  33. ああ、君の熱意や努力する姿勢は、 もう論ずるに及ばずでしょ?
  34. もう一つの運も、君は備えてる。謎の恋文が こんな事態に繋がったんだからね。
  35. あ、そういえば、恋文の相手は どうなったの?
  36. 相手、ですか? 返事、断る、しました。 それ以降、姿、見ていません。
  37. ええ……、いろいろ気になるけど……。 とりあえず研究者の話、考えておいてよ。