- ふああ、寝過ぎたな……。
釣りでもして目を覚ますか。
- リンハルト、話、聞きました。
- 藪から棒にどうしたの、ペトラ。
……君も一緒に釣る?
- あなた、深き水、小さし分け身、沈めます。
流れたる、旅し、住み人、拐す、狙います。
- ……?
- わたし、遥か昔、童の頃より、
それ、いと、上手、なりけり、です。
- あなた、先達、この地、わたし、わからず、
共に、務める、願う、しましょう。
- ………………。
ふふ、はははっ……ああ、そうか。
- この前の手紙のせいだよね?
古風な表現を勉強するって言ってたし。
- それで、こうして話し言葉に混ざっちゃった
わけか……。
- フォドラ、古い言葉……とても、難しい、
思います。話す、より、難解でした。
- それは難しいよ。
書くのだって大変なのに、よく話せるね。
- いやあ、凄いな、ペトラ。
まるで研究者だ。
- おそらくだけど、その言葉を話せる人は
フォドラを探しても数えるほどしかいない。
- それこそ「女神が地上にいた」とされる
ような時代の言葉だからねえ……。
- なるほど、稀少、話し手、ですか。
- わたし、フォドラの言葉、話す、
不得意です、でした。
- しかし、それ、上達するより先、女神の
言葉、身につける、しまう、驚愕です。
- 人には得意不得意があるからさ。
君に適性があったということだと思うよ。
- それにしても、フォドラの外から来た君が
これほどの遣い手になるなんて、面白い。
- 面白すぎる。
くふふ……。
- リンハルト、先程から、笑う、不思議、
思う、思っていました。
- あなた、そこ、面白がる、いた、ですか。
- そりゃそうだよ。僕だって読むのがやっとの
言葉を君が使いこなしてるんだよ?
- これは僕のほうが、ペトラ先生にご教授を
願わなきゃいけないみたいだね。
- わたし、リンハルト、教える、ですか?
それ、とても、嬉しいです。
- いつも、わたし、あなたから、教わる、
ばかり……。恩、返せる、良いです。
- こうなってくると、君をただブリギット王に
しておくのは惜しいなあ。
- 今からでも遅くはない。
研究者を目指してみないかい?
- 研究者、ですか?
- そうだよ。研究者に必要なのは、
熱意……そして何より、運さ。
- 熱意と運、ですか?
- ああ、君の熱意や努力する姿勢は、
もう論ずるに及ばずでしょ?
- もう一つの運も、君は備えてる。謎の恋文が
こんな事態に繋がったんだからね。
- あ、そういえば、恋文の相手は
どうなったの?
- 相手、ですか? 返事、断る、しました。
それ以降、姿、見ていません。
- ええ……、いろいろ気になるけど……。
とりあえず研究者の話、考えておいてよ。