1. 陛下……おや、武器の手入れですか。 邪魔をしてしまいましたかな。
  2. いや、先ほど一段落したところだ。 何か用か、ロドリグ?
  3. ええ、先日ゴーティエ領に赴いた際、 マティアスの奴からこれを預かりまして。
  4. 辺境伯から? この剣は……。
  5. ランベールに借りたまま、 すっかり忘れていたそうで。
  6. 30年も前に借りた剣を、子供の代になって 返すとは、あいつもとんだ無精者ですよ。
  7. 30年前と言うと、お前たちが士官学校に いた頃か。どんな経緯があったんだ?
  8. あれは私たち3人を含めた学級の皆で、 賊討伐の課題に赴いた時……
  9. 私がうっかり突出してしまい、仲間と 敵陣に取り残されたことがありましてね。
  10. 救援に行くか否かを巡って、あの2人は 戦場で掴み合いの喧嘩を始めたそうです。
  11. ……少し意外だな。 父上はともかく、あの辺境伯までか。
  12. あいつも昔は血の気の多い男でしたし、 何より引き下がれなかったのでしょう。
  13. 物資が尽きかけているのだから、 教団の救援を待てというマティアスと……
  14. 独りでも救援に向かおうとするランベールの 喧嘩がどうなったかは、私も知りません。
  15. ただ結局、ランベールとマティアスは2人で 敵陣を突破し、我々のところに現れました。
  16. 父上も猪突猛進というか何というか…… 若い頃だけあって、青かったのだな。
  17. 戦いの最中、槍を折られたマティアスに、 ランベールが貸してやった剣がこれだとか。
  18. 何となく返す機を失ったまま30年も 経ってしまうとは、と笑っていましたよ。
  19. いや、辺境伯のことだ。本当に、 30年も忘れていたわけではないだろう。
  20. ……かもしれませんね。 これはあくまで私の想像ですが……
  21. 陛下が王位について国が回り出し、 ようやくあいつの死を過去にできた、とか。
  22. ……なるほどな。とにかく、辺境伯には 確かに受け取ったと伝えておこう。
  23. しかし話を聞くに、昔から父上は仲間を 失うのが我慢ならない性質だったのだな。
  24. ……仲間が傷つくのを承知で戦いを始めた 俺を、父上は愚かだと笑うだろうか。
  25. それは難しい質問ですね。 仲間想いな方だったのは確かですが……
  26. 民を見守り続けてくれた教団を見捨てるのも きっと躊躇ったと思いますよ。
  27. ……ロドリグ、父をよく知るお前に。 改めて頼みたい。
  28. もし俺が、父上に恥じねばならないような 行いをした時には……
  29. 命を懸けて、お止めしますよ。 それはあいつとの約束でもありますから。
  30. ……ありがとう。